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コラム COLUMN

MVPポイントとは?

金沢 慧

最も推定勝率を高めた打者は誰か?

 Baseball LABの「今日のMVP」では、WPA(Win Probability Added)を基にしたMVPポイントを紹介している。WPAは選手がチームの勝利にどの程度貢献したかを測る指標であり、MVPポイントの算出概要はhttp://www.baseball-lab.jp/about_tmvp/に掲載している。

 では、実際にどのような選手が高いMVPポイントをマークしているのか。今回は6月30日~7月6日の打者のMVPポイントランキングを紹介しながら、MVPポイントの見方を解説する。

サヨナラ打を放った長野久義がトップ!

 まずはセ・リーグから紹介しよう。この期間で4勝1敗と好調だった巨人から3人がトップ5に入っている。トップは7月5日の試合でサヨナラ打を放った長野久義。代打で活躍した高橋由伸をわずかに抑えた。

 ただ、長野が最もポイントを稼いだのは7月2日広島戦、1点ビハインドの6回表に逆転の適時二塁打を放った打席で329.3ポイント。次は7月5日中日戦、同点の10回裏に放ったサヨナラ適時打で290.0ポイントとなっている。

 前者は結果的に負け試合であり、後者はサヨナラ勝ちの試合。一見するとポイントは後者の方が高くなりそうだが、残りイニング、得点差、アウトカウント、塁状況からの推定勝率を基にするとそうはならない。長野を例に、推定勝率の具体的な変化分を見てみよう。

 7月2日に長野が放った二塁打は「1点ビハインド、6回表、2死二三塁」から「1点リード、6回表、2死二塁」に状況を変化させた打撃であり、巨人の推定勝率は「33%」⇒「66%」へと33%向上させた計算になる。一方、7月5日に放ったサヨナラ打は「同点、10回裏、1死二塁」から「1点リード、10回裏、1死一塁(つまり巨人の勝利が決まった状態)」に状況を変化させており、巨人の推定勝率は「71%」⇒「100%」と29%向上させた計算になる。

 感覚的に把握するならば、まず前者は「二塁打」「逆転打」であり、後者は「単打」「勝ち越し打」であるという差がある。単打より二塁打、勝ち越し打より一気に得点をひっくり返す逆転打の価値が高いことは理解しやすいだろう。また、後者は1死二塁からのヒットであることも影響している。同点ではあるものの、1死二塁のチャンスになった時点で巨人の推定勝率は50%ではなくなっており、71%まで高まっていると計算されるのだ。

 5日の試合では7回に逆転3ランを放った高橋の打席が567.8ポイントとなっており、長野のサヨナラ打を含めた他のどの打席よりも高い。つまり、この試合に限れば推定勝率を最も押し上げたのは高橋だったといえるだろう。

 ちなみに、WPAを計算する基となる推定勝率は3アウトになるまでに出塁するランナー数の分布などから算出されるのだが、式がかなり複雑なので今回は説明を省く。

まさに起死回生! サヨナラ逆転弾の斉藤がパ・リーグトップ

 パ・リーグのトップはやはり斉藤彰吾。7月2日日本ハム戦の8回裏に代走で出場し、まずは盗塁を成功させて54ポイントを獲得すると、9回にはプロ初アーチが逆転サヨナラ本塁打となり698.9ポイントをマーク。この試合だけで752.9ポイントを荒稼ぎした。

 2位のジョーンズは最も稼いだ打席こそ106.2ポイント(7月4日ソフトバンク戦の1回表の二塁打)だが、期間内の27打席のうちマイナスのポイントとなったケースがわずか8打席のみ。7安打に加え、持ち味の「選球力」を抜群に発揮して10四球をマークした。

 先ほどの長野の例と理論的には同じだが、ジョーンズの例を基にマイナスポイントになるケースを確認してみよう。ジョーンズの打席で最もマイナスが大きかったのは7月2日オリックス戦での併殺打で-84.9ポイントとなる。「2点リード、5回表、1死一三塁」から「2点リード、5回表、3死」に状況を変化させた打撃であり、楽天の推定勝率は「81%」⇒「73%」へと8%下げてしまった計算になる。得点となる犠飛などは別だが、基本的にアウトになる打球を打つとマイナスのMVPポイントが入り、特に2つのアウトを同時に取られる併殺打はその下落幅が大きい。

交流戦MVPはやはりあの男!

 最後に交流戦でのMVPポイントを紹介しよう。2年ぶりに巨人の優勝で幕を下ろした2014年の交流戦。MVPに選ばれた亀井善行は打者のMVPポイントでも堂々のトップだった。中でも、6月14日楽天戦の8回表に放った2点適時打(実際はライトのエラーもあり3点入った)が412.1で最も高く、5月31日オリックス戦の12回表に放った決勝本塁打も404.5ポイントをマーク。どちらもチームの推定勝率を大幅に押し上げる一撃だった。他にも100ポイント台の打席が5回あった一方で、マイナス100ポイントを下回るのは6月6日西武戦、同点で迎えた9回裏のチャンスで三振した場面の一度だけと、勝負所での活躍が目立っていた。

 このように、2014年交流戦での亀井のMVPは、勝利貢献度という観点からも納得できる選出といえるだろう。ちなみに、2位には柳田悠岐が入っていたので、もしソフトバンクが優勝していたならMVPポイント上では柳田を推せたことも付記しておく。

 また、ここまで見ても分かるように、MVPポイントは走者状況やイニング、得点差によって変わる指標となっている。そのため、選手の能力そのものを評価している指標ではないことは頭に入れておきたい。