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コラム COLUMN

守備範囲をビジュアル化してわかること ~鳥谷の変化、今宮と安達~

田中 秀典

2014年プロ野球 おさえておきたい守備(UZR)の話10選!


 昨年末に『2014年プロ野球 おさえておきたい守備(UZR)の話10選!』~前編~~後編~でデータスタジアム仕様のUZR(Ultimate Zone Rating)の一部を紹介した。そのコラム内でも『UZRは守備を総合的に評価する指標で、内野手は「守備範囲」「失策(失策出塁&その他の失策)」「併殺奪取」、外野手は「守備範囲」「失策(失策出塁&その他の失策)」「肩力(AR:Arm Rating)」で評価されます。』と書いているが、「守備範囲」に絞って見ていきたい。ただし、数値は以前のコラムで発表しているので、今回はその数値の大元となっている打球処理位置のデータを図にして見ていきたいと思う。


セ・リーグを代表する遊撃手 巨人・坂本と阪神・鳥谷

 『2014年プロ野球 おさえておきたい守備(UZR)の話10選!』~後編~の1位「鳥谷の守備範囲数値が低下。メジャー移籍への影響は!?」で紹介したが、2014年のセ・リーグの遊撃手に大きな変化があった。

 表1は主なセ・リーグ遊撃手の直近3年UZRである。2012、2013年で見るとセ・リーグにおける遊撃手は巨人の坂本勇人、阪神の鳥谷敬が秀でていた。チームの中でも主軸を担う攻撃力を擁しながら、守備においても広い守備範囲を誇り、攻守において優れた成績を残し、まさにリーグを代表する遊撃手であった。しかし、2014年になると状況が変わる。26歳の坂本は今まで通り守備範囲でもプラスで、UZRも7.0とリーグトップだった。33歳の鳥谷は打撃においては打率.313、出塁率.406と好成績だった。守備においては失策はプラスだったが、守備範囲は一転してリーグワーストと非常に厳しい数字になった。鳥谷にどういう変化があったのだろうか。




阪神・鳥谷のゴロ打球処理位置の比較

図2:阪神・鳥谷 2013、2014年のゴロ打球処理のプロット

 図2はゴロ打球を処理した位置のプロットである。守備範囲でリーグトップをマークした2013年(図の左)、リーグワーストだった2014年(図の右)ではどこに違いがあったのか。

 まず、ここ2年の守備イニングは先ほどの表1の通りほぼ同じだが、上記打球の補殺数は2013年が415に対し、2014年は307と大きく減少している。本来は鳥谷が守る遊撃周辺に飛んできた打球機会数にもよるので、処理数の大小だけでは評価はできないが、前年とほぼ同じ守備イニング数で100以上の補殺数の差があるのは、さすがに無視できない。

 プロットを見ると、2014年も深い位置の打球処理が全くないわけではないが、定位置から三遊間側の打球においてはややプロットが少ないように見える。単年では断言できない部分はあるが、三遊間側の打球処理については今後も厳しくなることが予想される。このあたりは遊撃の責任範囲となるゾーンに対しアウトにした打球だけではなく、できなかった打球を考慮して、よりどのゾーンの処置が悪くなっているかを分かりやすい図にすることを検討していきたい。

前後左右に広い守備範囲を誇るソフトバンク・今宮とオリックス・安達

図3:ソフトバンク・今宮、オリックス・安達の2014年ゴロ打球処理プロット

 今度はパ・リーグの遊撃手を見てみたい。2014年のパ・リーグ遊撃手のゴールデングラブ賞はソフトバンク・今宮健太で、155票という圧倒的な票数を獲得し、2年連続2回目のタイトルとなった。2位は28票のロッテ・鈴木大地、3位は26票のオリックス・安達了一となった。詳しくは~前編~の1位「今年は安達だった!?今宮と安達の守備を検証!」で紹介しているが、3位の安達は守備範囲で非常に高い数値を記録している。そこで今宮と安達の守備範囲を図3で見ていきたい。

 このプロットも先ほどの鳥谷の項目で紹介した定義と同じである。安達の守備範囲による失点抑止が20.6に対し、今宮は15.1であった。今宮も十分に高い数値ではあるが、安達はそれ以上であった。図3を見ると、安達は円を描くように万遍なく範囲が広い。一方で今宮も十分に広いが、安達と異なるのはより二塁手や三塁手よりにプロットがある。~前編~にも書かれている通り、「こんなところの打球を処理するのか」という派手さにおいては今宮の方があったのは確かかもしれないが、本来はこの2選手で得票数を争ってよかったと思える。

外野手でゴールデングラブ賞を獲得した日本ハム・陽とソフトバンク・柳田

図4:日本ハム・陽、ソフトバンク・柳田の2014年飛球(フライ、ライナー)処理位置プロットと等高線

 次は外野手を見てみたい。取り上げるのは~前編~の3位「守備範囲の陽岱鋼、肩力の秋山翔吾!」で紹介したパ・リーグの中堅手で、対照的な2選手を見てみたい。レギュラー中堅手(各チーム中堅で最も多く出場した選手)の守備範囲による失点抑止では13.8とリーグ断トツだった日本ハムの陽岱鋼と、一方で-9.7とリーグワーストだったソフトバンクの柳田悠岐である。

 図4も打球処理位置のプロットであるが、外野手はフライとライナーの飛球のみを対象としている。また背景も右中間と左中間を分かりやすくした背景を用いて、さらにプロットだけでなく等高線を用いて表現した。

 簡単にいえば密度の高いゾーンが色濃くなっており、そこは処理が多いゾーンである。プロットと合わせて見るとイメージできると思う。陽と柳田の違いといえば、後方の打球にありそうだ。陽は柳田に比べ、全体的に後方の色が濃い。打球ゾーンは図4のライト線下にある数値付近の補助線を見ての通り、距離を8つに区切り、最大の距離ゾーンを距離8のゾーンとしている。そして、距離8のゾーンでのアウト数は柳田が82に対し、陽は9715もの差があった。さらに細かくなるが矢印部分の黄色で囲った箇所に着目した。柳田はこのゾーンが処理0に対し、陽はこのゾーンで7つアウトにしている。中堅手がこのゾーンをアウトにしたのはリーグ全体で21であり、実に三分の一は陽がアウトにしていたことになる。

 外野手にとって後方の打球(特に距離8のゾーン)は長打コースになり、その打球をアウトにできるかどうかは失点を抑止する上では大きい。外野手は守備範囲が全体的に広いのも大事だが、後方に強いかどうかも重要な要素だといえよう。

データの可視化

 今回は守備面でのデータ可視化を行った。守備においては、主観評価が主流だったところからUZRのような定量化がなされたのは飛躍的な進歩だ。ただ、今回は定量評価とその大元となっている打球データをプロットなどの図にすることで、より直感的に分かりやすくなるのではないかと思い試みた。他にもよりデータ数が増えれば、プロットや等高線を年度毎に用意し、静止画でなく動きをつけることで経年変化のイメージがより分かりやすくなるかもしれない。

 ただし、鳥谷ところでも触れたがプロットはあくまでアウトにした位置の可視化に過ぎない。一方でアウトにできなかった打球がある。今後は同じゾーンに対しても、アウトにできた打球とできなかった打球の両方を考慮し、ゾーン毎の処理率や失点抑止の大小から見る守備範囲傾向を分かりやすく可視化できればと思う。

 また、Baseball LABでは選手個人ページにおいて野手であれば安打マップ、投手であれば投球マップを表示している。データ収集の精度を上げ、集計や分析を行い数値で見せることは基本だが、合わせて図で見せることより分かりやすくなるのではないかと思う。打球方向や球数別の球速帯など、いろいろな可視化ができそうだ。
 最近はインフォグラフィックという言葉が浸透しつつあるように、データも数値で見せて終わりでなく、直感的に理解してもらう工夫はスポーツ界においても例外でないと思われ、われわれも取り組まなければならない課題である。