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コラム COLUMN

打席に大谷翔平、山田哲人、ジョーンズ、嶋基宏。ポジショニングは違って当然!?

金沢 慧

赤と青は何を意味しているか?

 唐突ですが、クイズです。上の図で赤と青の色分けは何を表しているでしょうか。


 グラフの見方を説明します。ひとつひとつの点は打者を表しており、まず左のグラフの縦軸は「フライ打球のうち左(レフト)方向への割合」で、横軸は「ゴロ打球のうち左方向への割合」を表しています。つまり、上に位置するほど左方向へのフライが多く、右に位置するほど左方向へのゴロが多い打者になります。

 同様に、右のグラフの縦軸は「フライ打球のうち右(ライト)方向への割合」で、横軸は「ゴロ打球のうち右方向への割合」を表しています。つまり、上に位置するほど右方向へのフライが多く、右に位置するほど右方向へのゴロが多い打者になります。

 打球方向の区分は「左、中、右」の3方向に分けており、このグラフではそのうち左方向と右方向の打球割合を使用しています。そのため、グレーの補助線は33.3%(約1/3)の場所に引いてあります。

 左右の図を比べると赤と青のまとまりが反対の場所に位置していますが、さて、この色分けは何を意味しているのでしょうか。

中(センター)方向は赤と青の点が混在

 中(センター)方向の割合も見てみましょう。


 先ほどと同様に、縦軸は「フライ打球のうち中方向への割合」で、横軸は「ゴロ打球のうち中方向への割合」を表しています。

 赤と青の打者が混在しており、左右の方向に比べるとどの打者も33.3%の補助線付近に集まっていることが分かりますね。

 ここまでで、赤と青の打者の特徴をまとめると、次のようになります。

赤 → フライは右方向がやや多く、ゴロは左方向が多いまとまり。
青 → フライは左方向がやや多く、ゴロは右方向が多いまとまり。
(中方向にはそれほど違いが見られない)

正解は・・・

 答えは分かりましたでしょうか。正解は「赤が右打者、青が左打者」です。左右の打者で打球方向が違うのは感覚的に把握しやすいことなので、それほど難しくはなかったかもしれません。

 ただし「右打者、左打者ともに引っ張る打球が多いのではないか」と考えていた方は、少し迷ったかと思います。この図を見ると、その先入観とは異なる結果が出ています。まとめると・・・

・右打者のゴロは引っ張った左方向が多く、フライは流した右方向が多い。
・左打者のゴロは引っ張った右方向が多く、フライは流した左方向が多い。

 グラフ上で名前を表示している今季売り出し中の2人の若武者、日本ハムの大谷とヤクルトの山田は分かりやすい例です。左右の差はありますが、2人ともゴロの6割程度が引っ張りで、フライの5割近くが流し方向への打球となっています。

同じ右打者でも嶋とジョーンズでは大違い

 また、同じ右打者の中でも、例えば楽天の嶋とジョーンズでは打球方向が大きく違います。

 ジョーンズはゴロの8割近くが左方向への引っ張った打球なのに対し、嶋は2割程度。ジョーンズはフライも4割程度が左方向なのに対し、嶋はほとんど左方向のフライがありません。

 右方向に目を移すと、ジョーンズはゴロがほぼなく(名前がはみ出すくらい左に寄ってますね)、一方で嶋は4割程度と左方向へのゴロより多くなっています。フライはジョーンズが2割程度なのに対し、嶋は7割以上が右方向。同じ右打者ですが、打球方向割合の違いは顕著に表れています。

打球方向でポジショニングが変わる

 このような打球方向の違いは野手のポジショニングに大きな影響を及ぼします。

 最近、守備を評価する上で「UZR」という指標が用いられますが、上の図はUZRの守備範囲を算出する上で必要なゾーンデータを取得するために用いるグラウンド図で、黒点は野手の基本ポジションを表しています。

 先ほどのデータを見ただけでも、大谷が打席に入れば内野手は右に、外野手は左に、山田が打席に入れば内野手は左に、外野手は右に動くでしょうし、ジョーンズなら全体的に左に、嶋なら全体的に右にポジショニングをとるはずです。少なくともこの4人が打席の時にすべて図の黒点のようなポジショニングをしているとは考えにくいですね。

 実際、プロ野球ではさらに細かい単位(例えばカウント、投手の左右、走者状況など)に分けて打球方向を分析し、ポジショニングを変えるということを行っています。

ジョーンズの打球方向詳細(2013年)

 2014年のデータはまだそろっていないのですが、本来はUZRの算出に使うゾーンデータを基に2013年のジョーンズの打球方向を可視化すると、上の図のようになります。0-0の原点がホームベースで、あとは先ほどのUZRのグラウンド図と同じ見方になります。

 このグラフィックスからは、2014年と同様にゴロ、フライとも左方向が多めであることが分かります。UZRでは外野へ抜けたゴロをすべて内野手の評価に使う(本塁から約45メートルまでの内野ゾーンとして評価する)関係もあり、特にショートからサードのポジションにかけてのゴロは真っ赤です。

 このレベルの引っ張り打者だと、メジャーで行われているように、セカンドベースより左側に内野手を3人置いても良さそうですね。

嶋の打球方向詳細(2011~2013年)

  同様に2011~2013年の嶋のデータも見てみると、ジョーンズとは異なりゴロ、フライ、ライナーすべてで右方向への打球が多いと分かります(3年分のデータなので、グラデーションはジョーンズと異なる基準にしています)。

 この場合は逆に、セカンドベースより右側に内野手を3人置くポジショニングが考えられますね。

 実際にはそこまで極端なシフトにならないにせよ、嶋とジョーンズでポジショニングが異なるのは当然のことだと考えられます。

ポジショニングの違いを守備評価にどう反映させるか?

 以上、打者の左右などから打球方向の違いを見てきました。

 今回紹介したように打者によって大きく打球方向が違い、それに伴ってポジショニングも変わることが想定されるので、本来ならUZRなどの守備評価指標でもポジショニングによる影響を考慮する必要があります。

 チーム全体の守備指標という意味であればそれほど問題ありませんが、個人の純粋な守備範囲を算出しようという観点では、ポジショニングによる影響は慎重に考えるべき事柄となります。

 データスタジアムのUZRは走者一塁にいる場合といない場合で別に算出することで、ポジショニングによる影響を一部考慮した算出方法になっていますが、まだまだ十分ではありません。より厳密性を求めるならば、上記のような左右打者別、打球方向別に打者をタイプ分けし、守備範囲のポイントを算出することが必要になるでしょう。

 プロ野球はペナントレース終盤戦。クライマックスシリーズ、日本シリーズ、日米野球と一気に佳境を迎えますが、データが揃ってくるこの季節はプロ野球のアナリストにとっても重要な時期となります。今後は2014年のデータを含めて、ポジショニングの要素を考慮したUZRなど守備評価方法の検証を進めていく予定です。

※今回のコラムではUZRの細かな説明は省いておりますが、9月14日に東大本郷キャンパスで行われる統計関連学会連合大会での「スポーツにおけるビッグデータの活用」という企画セッションにて、UZRの算出についての発表を行います。ご興味のある方はぜひご参加ください(後ほどその内容を踏まえて、UZRについてのレポートをアップする予定です)。

2014年度統計関連学会連合大会HP

統計科学の新展開と産業界・社会への応用
(「数学協働プログラム」に組み込まれておりますので、この企画セッションは参加費が無料となっております)

UZRの詳細は「勝てる野球の統計学 セイバーメトリクスhttps://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/02/X/0296230.html」にも詳しく記載しておりますので、そちらもぜひご参照ください。