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コラム COLUMN

統計分析レポート ~四球後の初球は甘くなるのか~

宮崎 誠也

 ランナー1,2塁で四球。満塁になってピンチあるいはチャンス拡大。投手がコントロールに苦しんでいるこんな場面をよく見かけます。さて、この場面で次打者の初球にはどんなボールを投げているのでしょうか。「四球後の初球だったので甘い球が来ると思っていました」等のコメントをする選手もいます。一方で、投手はコントロールに苦しんでいるので、初球からストライクが欲しいはずです。しかし初球を狙われていることはバッテリー間で共通の認識としてあるはずです。それでもストライクを取りにいくのか、はたまた慎重にボールから入っていくのか。このような場面で初球が甘くなるかどうかを分析したいと思います。

場面の限定

 今回考えていく場面は四球後の初球です。ただし、四球を出すことで投手側にメリットが生じる場合の四球(敬遠策や塁を埋めるための四球)後の初球と四球前後で投手交代があった後の初球は今回の場面にそぐわないとして該当場面から除きます。
 よって、考える場面としては1塁に走者がいる場面(ランナー1塁、1,2塁、1,3塁、満塁の4パターン)で四球を出して、ランナー1,2塁あるいは満塁になった時の次打者の初球とします。この過程を経た場面での影響を見るために、それ以外の過程(ヒット・エラー・ランナー2塁での四球等)を経てランナー1,2塁あるいは満塁になった場面を比較対象としました。各場面を比較し、どのように変化しているのかを見ていきます。データは2011~2015年9月24日までのセ・パ両リーグの全試合としました。

球種とコースによる違いは?

 該当場面とそれ以外の場面の球種とコースについて見ていきます。
 まず球種についてです。球種は大きく3つに分けました。直球系(ストレート、シュート)、曲がる系(スライダー、カーブ、カットボール)、落ちる系(フォーク、チェンジアップ、シンカー、特殊球)の3タイプです。これら3タイプの割合を比較していきましょう。円グラフを見て分かるように、ともに直球系の割合が最も高く、球種タイプの割合に違いはほとんどないようです。つまり球種に偏りができ、ヤマを張りやすくなる訳ではないようです。

 次にコースについてです。コースについては右打者と左打者で分けています。ヒートマップで表しました。赤く濃くなっている部分が多く投げられているコースです。各場面とも打者の左右関係なしに外角真ん中~低め付近にボールが集中しており、場面による違いはほとんどないようです。つまりど真ん中付近の甘いコースにボールが集まりやすい訳ではないようです。

 ここまでのことを総合すると、球種とコースによってボールが甘くなることはなさそうです。

 それでは選手たちはどこに対して「甘い球が来る」と感じているのでしょうか。該当場面のみをより詳しく見ていくことにします。

リードするキャッチャーによって初球の入り方が違う?

 該当場面のみをより詳しく見ていくために今度はボールを受けるキャッチャーごとに違いがあるのかを見ていきました。代表的なキャッチャーとしてセ・リーグから巨人の阿部選手、中日の谷繁選手、パ・リーグから楽天の選手、西武の炭谷選手の計4選手を見ていくことにします。
 まず球種タイプ割合についてです。直球系に着目すると阿部選手、谷繁選手、嶋選手はそれぞれ50%付近の割合で要求しているのに対し、炭谷選手のみ45%弱の割合で要求しています。その分、炭谷選手は落ちる系の割合が唯一20%を超えています。
このことより、炭谷選手は打ち気に勝る打者を警戒して、直球系の要求を減らし、一般的に空振りを取りやすいフォークやチェンジアップといった落ちる系のボールを要求する場合が他の3選手より高いと考えられます。

 次にコースについてです。少し分量が多いので対右打者から見ていきます。図を見ると、4選手とも外角に集中していますが、ストライクゾーンなのか、それともボールゾーンなのかが異なっています。図中央の谷繁選手と嶋選手は外角低めのボールゾーンに集中しているのに対し、図右の炭谷選手は外角真ん中~低めのストライクゾーンに集中しているのが分かります。図左の阿部選手は他の3選手の中間ぐらいのようなストライクゾーンとボールゾーンのギリギリのところに集中していると分かります。このことより、ピンチの際に対右打者に対しては、谷繁選手と嶋選手は慎重にボールから組み立てていくタイプ、炭谷選手は強気に初球からストライクを取りに行くタイプ、阿部選手はギリギリのコースを要求するタイプと考えられます。

 最後に対左打者についてです。対右打者に比べて大きな違いが見られます。選手によっては外角中心でなくなっています。図左の阿部選手は外角高めのストライクゾーンに最も集中しており、内角低めのギリギリのゾーンも濃くなっていると分かります。図中央左の谷繁選手は内角低めのボールゾーンが最も集中しており、外角高めのギリギリのゾーンも濃くなっているのが分かります。一方で図左の嶋選手と炭谷選手は対右打者同様に外角に集中しており、真ん中~低めのストライクゾーンからボールゾーンまで幅広く濃くなっているのが分かります。
 このことより、ピンチの際に対左打者に対しては、阿部選手と谷繁選手は内角低めと外角高めのストライクゾーンあるいはボールゾーンを広く使うタイプ、嶋選手と炭谷選手は対右打者同様に外角中心に攻めていくタイプと分かります。また、セ・リーグとパ・リーグの捕手で大きく異なっていることから、リーグに在籍する左打者のタイプが異なり、ピンチでの初球の入り方に差が出ているのかもしれません。今回のデータはあくまでも投じられたコースで分けたものであり、捕手が要求しているコースに投げ切れないことも多々あるでしょうが、差が見られたことは興味深いです。

 まとめとして、今回考えた場面とそれ以外の場面(塁状況同等)を比較した際「初球が甘くなる」ということはないようです。しかし、今回考えた場面のみを見てみると、リードするキャッチャーによっては要求する球種や、特にコースで偏りが生じ、その偏りに対してヤマを張りやすくなるので「初球を甘くする」ことはできそうです。打者はこの部分をいかにして狙っていくのかという駆け引きが重要になることでしょう。