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コラム COLUMN

「初速」と「終速」の差が小さければ良いストレートなのか?

金沢 慧

「初速」「終速」を測れるPITCHf/x

 PITCHf/xなどのトラッキングシステムで収集できる球速データにはリリースポイントで測る「初速」と打者の手元で測る「終速」があります。

 野球界ではよく「あの投手は初速と終速の差が小さいストレートを投げる良い投手だ」という話が出てきます。私もこの言葉を野球観戦中に使ったことがあるような気はしますが、そのときは実際にスピードガンで計測しているわけではありませんでした。「ノビやキレのあるストレートを投げる投手は良い投手だ」とほぼ同じような、あいまいな意味で考えていた気がします。

 では、実際にトラッキングシステムで計測すると「初速」「終速」はどのような傾向が見られるのでしょうか。

※ここで使用しているデータはSPORTVISION社より研究用として提供されたMLB(2012~14年)のデータとなります。

ストレートは「初速」「終速」の差が大きい

 PITCHf/xのデータを基に球種別の「初速」「終速」の差をランキングにしたものが上の表になります。データはMLB全体を対象にしています。

 球種はPITCHf/xのデータを基に自動的に割り振られているもので、今回は日本でもなじみのある主要な球種をピックアップしました。ストレートはPITCHf/xで分類するところのFF(フォーシームファストボール)を意味しています。

 この表をみると、ストレートなど直球系の球種は他と比べて「初速」「終速」の差が大きいことが分かります。そもそも球速が速いせいでもあるのですが、差ではなく比をとってみても、直球系は減速している割合が大きいと分かります。

上原浩治、藤川球児の球種別「初速」「終速」

 具体的に上原浩治、藤川球児のデータを見てみましょう。


 全体の傾向とさほど変わらず、直球系よりも変化球の方が「初速」「終速」の差は大きく、比で見ても直球系は減速する割合が大きいと分かります。

 上原と藤川のストレートは、一般的にストレートの「初速」「終速」の差が小さいといわれるタイプかと思いますが、むしろカーブやカットボール、スライダーなどの変化球の方が「初速」と「終速」の差は小さく、減速する割合も小さいようです。

上原、藤川のストレートは「初速」「終速」の差が大きい?

 そもそも、上原、藤川のストレートは「初速」「終速」の差が小さいのでしょうか?

 上の表は2012~14年にMLBで登板した主な日本人投手の比較ですが、これを見ると上原と藤川はともに下位に位置しており、「初速」「終速」の差や比は小さくないことが分かります。

 また、どの投手も「初速」「終速」の差は2キロ以内に収まっており、比を見ても1%程度の違いしかないことも分かります。すべてMLBで登板している日本を代表する投手間での比較であり、差が生まれにくいということもあるでしょうが、一般的にイメージされているほどストレートの「初速」と「終速」には違いがないようにも思えます。

上原、藤川は変化量(曲がり幅)が大きい

 「初速」「終速」に比べて、各投手のストレートで大きな違いが出るのは「変化量(曲がり幅)」です。

 上原や藤川の変化量は他と比べて大きく、特に「ホップ方向」に変化していることが分かります。

 また、岡島秀樹、和田毅は左腕ですので、横方向の変化がプラス(一塁側方向)になっています。右投手はすべてマイナス(三塁側方向)になっており、特に岩隈久志はホップ方向よりもシュート方向の変化量が大きいと分かります。

※変化量の詳細はこちらのコラムをご覧ください。「ホップ方向」への変化は実際に球が浮き上がるわけではなく、重力のみの影響を受けた球と比べた変化を示しています。

ストレートの「ノビ」が大きいと「初速」「終速」の差は大きくなる?

 変化量や曲がり幅という言葉はイメージしにくいかもしれませんので、ここでは「ストレートの変化量=ノビ」と言い換えてみましょう。

 上の図は「ノビ」と「初速」「終速」の差の関係を表したものです。できるだけ球速に影響されないように、平均初速が140~145キロの間のストレートだけを対象としています。

 これを見ると、ノビがある球ほど「初速」「終速」の差が大きくなる傾向にあると分かります。上原や藤川はノビが大きいため、「初速」「終速」の差が他よりも若干大きいのではないかと考えられます。

 すなわち、上原、藤川に「初速」と「終速」の差が小さいと感じていたものは、実はそうではなく、変化量が大きいノビのあるストレートを意味していたのではないかということです。

「初速」「終速」の差は小さいストレートは真っスラ?

 最後に球種別の変化量と「初速」「終速」の比を見てみましょう。変化量が小さく、比が小さめの球種はストレートではなく、スライダーやカットボールになっています。やや細かな話になりますが、スライダーやカットボールの多くは弾丸のように進行方向に対して渦を巻く回転がかかるため、上下左右には変化しにくいです。もちろん回転軸を縦にして真横に曲げるスライダーもありますが、平均的には変化量が小さい球種となります。


 つまり、スライダーやカットボールに近いタイプのストレート、いわゆる「真っスラ」であれば、「初速」と「終速」の差が小さいと考えられるかもしれません。しかし、それは今までの「良いストレート」を指す言葉とは異なっているかと思います。


 ということで、最近は私も【ストレートの「初速」「終速」の差が小さい良い投手】という表現は控え【変化量が○○なストレートを持っているタイプ】と表現するように心がけています。


 日本のプロ野球でもトラッキングシステムは徐々に導入されつつありますので、今後はこのような研究もより深まっていくことでしょう。それによって、今までの野球で当然のように使われていた表現が少しずつ変わっていく・・・のではないかと考えています。