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コラム COLUMN

盗塁企図時の投球を考慮して盗塁を評価する

大川 恭平

良いスタートを切ったにもかかわらず、運悪く投球が高めのコースに外れたストレートだったり、はたまたスタートが悪くても投球がワンバウンドしたり…。

盗塁の成功・失敗を左右する要因の1つに投手の投球があります。今回は盗塁を仕掛けた時の投球に注目し、その投球が盗塁をしやすい投球だったのか、それとも盗塁しにくい投球だったのかを考慮して盗塁でのチームへの貢献度を評価することを考えてみたいとおもいます。

盗塁難易度が高い球種と低い球種

※不明は投球時以外の盗塁企図を含む

はじめに「球種」によって盗塁を成功させる難易度にどの程度差があるのか確認してみましょう。表は2015年シーズンの1518回の盗塁企図の結果を球種別にまとめた物です。球速の遅いカーブや投球がワンバウンドになりやすいフォークといった球種は、比較的成功率が高くスライダーやストレートは成功率が低い傾向にあることが分かります。最も成功率が高かったカーブと最も成功率が低かったストレートの間では15.3%成功率に差がありました。

盗塁難易度が高いコースと低いコース

次に投球の「コース」によって盗塁を決める難易度にどのような差があるのか調べてみましょう。上の図は2015年度の盗塁成功率を投球のコース別にまとめたものです。
盗塁成功率は低めのボールゾーンでは高く、高めのボールゾーンでは低い値となっていることが確認できるかとおもいます。

投球による盗塁難易度を考慮し再評価する

これまで盗塁は、ワンバウンドのフォークボールの時などいわゆる難易度の低い状況下で決めた盗塁も、高めボールゾーンのストレート時など盗塁を決めることが難しい状況下の盗塁も等しく「盗塁1」という評価しかできませんでした。

球種やコースによって盗塁の難易度が異なることが分かった所で、この難易度を考慮して盗塁を評価することを考えましょう。

以下の図は先程のコース別の盗塁成功率を球種ごとに細分化したものです。

※「-」は該当コースでの盗塁企図なし

※「-」は該当コースでの盗塁企図なし

※「-」は該当コースでの盗塁企図なし

このデータを用いて「今季盗塁企図の記録があった選手の平均と比べどの程度盗塁でチームに貢献できたか という視点で評価することを試みてみましょう。

評価方法を以下の様に定義します。

今季盗塁企図の記録があった選手の平均と比べどの程度盗塁でチームに貢献できたかの評価方法】
①盗塁を成功させたとき
=1-盗塁を成功させたときの球種・コースのNPB全体の盗塁成功率
②盗塁失敗に終わったとき
=(-1)×盗塁を成功させたときの球種・コースのNPB全体の盗塁成功率

「今季盗塁企図の記録があった選手の平均と比べどの程度盗塁でチームに貢献できたか」=①+②
---------------------------------------------------------------
評価方法をイメージするため2015年度セ・リーグの盗塁王に輝いた山田哲人を例に計算方法を見ていきましょう。

●山田はコース2のシュートの投球に対し1回盗塁を試み1つ盗塁を決めました。この場合
①=1-シュートがコース2に投じられた時のNPB全体の盗塁成功率
  =1-0.857(85.7%)=0.143 が貢献度として加算されます。

平均的な選手であれば85.7%の盗塁成功の見込みを100%にしたとみなし平均選手の盗塁成功見込みとの差分である0.143を評価として加算します。

●山田はコース2のストレートの投球に対し2回盗塁を試み1つの盗塁と1つの盗塁死を記録しました。この場合
①=1-ストレートがコース2に投じられた時のNPB全体の盗塁成功率
  =1-0.698(69.8%)=0.302
②=(-1)×ストレートがコース2に投じられた時のNPB全体の盗塁成功率
  =(-1)×0.698(69.8%)=-0.698
こちらは平均的な選手であれば69.8%の盗塁成功見込がある状況下で盗塁を失敗(=0%)したので平均的な選手であれば得られたはずの0.698を評価から減じます。

①+②=-0.395 がコース2のストレートの投球時に試みた盗塁の貢献度として加算されます。

コース25まで球種ごとに評価値を計算しそれぞれの値を合計した結果2015年度の山田哲人の評価は6.074となりました。


同様にして2015年度シーズンに盗塁を15以上記録した選手を対象に評価を求めてみました。

※偏差値は盗塁企図10以上の選手を対象に算出



セ・リーグ盗塁王に輝いた山田哲人とパ・リーグ盗塁王に輝いた中島卓也は、盗塁数は共に34でしたが、今回の評価方法では山田の方が中島を上回る結果となりました。
西武の秋山翔吾は17個の盗塁を記録しましたが盗塁死17が影響しNPB全選手の中でもワーストの評価となりました。
DeNAの梶谷隆幸はNPB全体では成功率が高かった低めのフォークボール時の盗塁死が響きました。

いかがだったでしょうか。今回は投じられた「投球」に着目し盗塁を評価しました。この指標で考慮しているのは、あくまで球種とコースの2つの要因のみで捕手の肩力やスローイングの上手さなどによる難易度は考慮していません。しかし、今回の投球に注目した評価は相手投手の持ち球や投球データと組み合わせることで代走の采配などにも応用できる可能性があるかと思います。
盗塁を決める「難易度」に注目して改めて盗塁を評価することで野手の真の走塁能力が見えてくるのではないでしょうか。