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コラム COLUMN

成瀬善久がついにゴロ投手へ? ~開幕前におさえておきたい球種、球質の話~

金沢 慧

「球種や球質」に注目したい投手をピックアップ

 データスタジアムで収集しているような球種データだけでなく、PITCH f/xなどのトラッキングシステムにより、投手の球種や球質は詳細に把握できるようになってきました。今回はメジャーリーグでの投球変化量やオープン戦の球種データから、新外国人やメジャーからの出戻り組を中心に、注目ポイントを紹介していきます。

※PITCH f/xのデータはSportvision社から研究用で提供されたものを使用しています。

※PITCH f/xの主な球種分類は下記の通りです。

FA = fastball
FF = four-seam fastball
FT = two-seam fastball
FC = cutter
FS = split-fingered fastball
FO = forkball
SI = sinker
SL = slider
CU = curveball
KC = knuckle-curve
EP = eephus
CH = changeup
SC = screwball
KN = knuckleball

ただし、文章中では日本で浸透している球種名を主に使っています。

成瀬善久はワンシームでゴロを量産できる?

 メジャーのデータを見る前に、オープン戦にて大きな変化の兆しを見せたヤクルト・成瀬善久の話から入りましょう。

 ご存知のように、成瀬の弱点といえば被本塁打が多いことで、グラフのように毎年ゴロよりもフライを多く打たれる投手です。しかし、昨秋から習得中のシュート方向に変化しながら落ちる速球「ワンシーム」を武器に、オープン戦ではゴロが15、フライが5とゴロが多くなっていました。球種割合もストレートが20%台(2014年は44%、2015年は38%)で、ワンシームとスライダーが全投球の半分以上を占めていました。

 いわゆる「飛翔」の代名詞的存在から脱却することができるか。まだオープン戦での3試合、100球ちょっとのデータではありますが、今シーズンの投球に注目したいところです。

 ちなみに、成瀬に限らず「ワンシーム」がブームのようで、巨人・菅野智之、DeNA・山口俊、広島・中田廉が今春からの習得を宣言しています。ただ、日本のプロ野球ではトラッキングデータがまだ公開されていないため、ワンシームとツーシームでどの程度変化量の差があるのかはよく分かっていません。

 握りやリリースが違うだけなのか、変化量も変わってくるのか。プロ野球でも独自にトラッキングシステムを導入する球団は増えているようですので、事実が明らかになるまでそれほど時間はかからないかもしれません。

和田毅も「動く速球」を活用

 今年から日本に復帰したソフトバンク・和田毅も球質に注目したい投手です。

 図はメジャーのPITCH f/xのデータをもとにして、2014年と2015年の投球の変化量を表したものです(変化量の詳細はこちらのコラム、もしくは昨年発売された書籍「野球×統計は最強のバッテリーである」(外部サイト)をご参照ください)。

 微妙な差なのですが、ストレートの変化量がやや左右に長い分布となり、ストレートとスライダーの間が狭くなっています。これは元来の空振りを奪えるストレートだけでなく、横に動く速球(ツーシーム、カットボール)を使うスタイルに変わってきたことを表しています。

 実際にデータスタジアムの球種の集計でも、以前日本で活躍していた時期はすべての年でストレートが50%を超えていましたが、データが収集できているオープン戦、練習試合の3試合(2/28の対ソフトバンク、3/6の対楽天、3/15の対ロッテ)の合計ではストレートが30%台でした。

 今年はストレートで空振りを多く奪うかつての姿だけでなく、打者の芯を外して打ちとるスタイルも多く見られそうです。

藤川球児は6球種を披露

 同じくメジャーからの復帰組では、先発に転向する阪神・藤川球児の投球も気になります。オープン戦ではストレート、カーブ、ツーシーム、スライダー、フォーク、カットボールと早くも6種類の球種を披露しています。「火の玉ストレート」のイメージが強い藤川ですが、日本時代から多くの球種を持っており、実は器用なタイプです。

 先発転向の影響もあるでしょうが、オープン戦ではストレートの平均球速が140キロと昔ほどの球速はありません。ストレートが打者にコンタクトされる割合は高かったため、これ以上球速が上がらなければ持ち球をフル活用した投球を見せることになりそうです。

ヤクルト・デイビーズのストレートは藤川球児クラス?

 藤川の球速の推移についてはこちらのコラムもご覧ください。球速は全盛期から徐々に落ちていたのですが、2013年、14年もホップ型の球質はさほど変わっていませんでした。15年もメジャーではわずか登板していないのですが、ストレートの変化量は右腕で3位(※10球以上を対象)。ホップ方向に30cm以上の変化をしており、球質としては「火の玉ぶり」が健在でした。

 そして、その藤川を抑えてストレートの変化量がメジャーの右腕で1位だった投手がヤクルトのデイビーズです。1試合のみの登板なので参考程度ではあるのですが、140キロ台半ばの球速ながら捉えにくい速球を投げていました。データのあるオープン戦の2試合(巨人戦、ソフトバンク戦)でもストレートの被安打はわずか1本にとどめており、そのポテンシャルは見せていました。

 ただし、ホップ型のストレートは空振りを奪いやすい半面、飛球にもなりやすい球質と考えられています。本塁打パークファクターの高い神宮球場では球質の低下や打者の慣れによって飛翔しないように、早めの継投が必要かもしれません。

オリックス・コーディエのストレートはキンブレル級?

 一方、最速166キロのふれこみなのがオリックスの守護神候補・コーディエです。コーディエのストレートは2015年メジャーでの平均球速が157キロで、右腕では3番目のスピードでした。

 この速度はメジャー屈指の守護神といえるキンブレル(レッドソックス)ともほぼ同じで、図のように投球変化量を比較してもストレートは似た位置となっています。キンブレルの方が背が低く、かつやや沈み込んだ投球フォームのためより落ちの少ない投球軌道に見えるかとは思いますが、純粋なストレートの球速・球質は同程度のようです。また「ストレート7割、変化球3割」というスタイルも似ています。

 コーディエはオープン戦でも平均153キロをマークしており、これは昨年のプロ野球の平均球速1位だったサファテと同じ水準です。不安視された制球面もオープン戦では大きく崩れず、被安打ゼロと結果を残しました。持っている球質のレベルは高いものがあるので、よほどコントロールが悪化しない限りは活躍が期待できそうです。

日本ハム・バースの「真っスラ」

 もうひとり取り上げたい投手は日本ハムのバースです。図をみると、カットボールに近い「真っスラ型」のストレートであることが分かります(黒の円のあたりが真っスラです。バースはPITCH f/xではストレートとカットボールの2球種に自動判別されていますが、分布の様子からこの2つは同球種である可能性が高いと思われます)。

 日本ではあまり知られていない投手かもしれませんが、図で比較対象としているアスレチックスのグレイがこのタイプの代表格です。軌道を見る限りでは、日本のプロ野球でも増田達至(西武)などがこのタイプと思われます。「真っスラ型」はプロ野球選手でもそれほどいない球質ですが、近年少しずつ増えているように感じます。バースほどではないものの、日本ハムのもう一人の助っ人・マーティンも近い球質ですので、何かしらの意図を持った獲得だったかもしれません。

ドラフト下位ながら開幕一軍を勝ち取った投手にも注目

 他にも、特に新戦力で球質に注目したい投手は多くいます。例えば

 ・明らかにストレートがシュート方向へ大きく変化する軌道で、右腕ながら左打者を19打数1安打(2/27の練習試合も含む)に抑えた赤間謙(オリックス)。
 ・真っスラ気味のストレートの90%以上を真ん中より高めに投じる楽天・石橋良太(楽天)。

など、ドラフト上位ではないにも関わらず開幕一軍入りを果たした投手は球種・球質に特徴がありそうです。トラッキングデータを収集していない状態では目視での確認と投球結果からの推察でしか確認する方法はありませんが、ドラフトの時点から球質をチェックしていたのかもしれません。

 決して速い球ではなくとも、平均と異なる球質であれば大きな武器です。開幕からあまり名の知られていない新戦力が活躍していたとしたら、それはちょっと癖のある球質の持ち主かもしれません。