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コラム COLUMN

ストライク率から分かること タイムリーdata vol.81

新家 孝麿


 ストライク率とは、投手の投球のうちストライクが何球あったかを示すものです。あまり聞き慣れたデータではないかもしれませんが、シンプルな指標ながら投手の特徴を知るのに適しています。今回はこのストライク率をテーマに、話を進めていきましょう。

 なお、本コラムでは【ストライク率=(見送り+空振り+ファウル+インプレー打球)÷投球数】で計算しています。

ストライク率が影響する指標

 まず、ストライク率の高い投手は、具体的にどのようなメリットを期待できるのでしょうか。さまざまな指標との関係性から明らかにしてみようと思います。

 上の表は過去10年間、規定投球回に到達した延べ303人の投手を対象に、ストライク率と各指標の相関係数を表したものです。1に近いほど正の相関、-1に近いほど負の相関、0に近ければ無相関を示します。
 正の相関を示したのはK/BB(奪三振÷与四球)。ストライク率が高い投手ほど、K/BBも高くなる傾向にあったということです。一方で、与四球率(9イニングあたりの与四球数)、被出塁率、P/IP(1イニングあたりの投球数)は負の相関を示しており、こちらはストライク率の高い投手ほど低くなる傾向にありました。勝敗や防御率との相関はほとんど見られなかったものの、ストライク率が投手にとって重要な指標と関係性があったことは無視できないでしょう。

 参考までに、昨季の規定投球回到達者のストライク率と被出塁率の関係をグラフにしてみました。青線がNPB平均値となっています。やはり、ストライク率が高い投手ほど被出塁率を抑えられる傾向にあり、負の相関が見られました。出塁を抑えれば相手に得点を与える機会を減らすことにつながります。昨季、大谷翔平マイコラスが活躍できたのも、偶然ではなかったことが分かるでしょう。

ストライク率は投手の能力?

 さて、このストライク率は投手の能力によって左右されるのでしょうか。過去10年間で2年連続で規定に到達した延べ173人を対象に、2年間のストライク率をグラフにしてみました。すると相関係数は0.734…と、前年と翌年の数値に大きな変動は見られませんでした。高いストライク率を出した投手は翌年も優秀な数値を出す可能性が高く、逆もまたその通りになるということです。年間を通じてある程度投げた投手であれば、翌年の数値を予想することも難しくないでしょう。

投手のタイプを分類する

 ここからはストライク率を細かく分析していきます。上の表は、ストライク率を内訳にしたものです。ストライクといってもその取り方はさまざまで、内訳を見れば投手のタイプを把握することができます。今回は、見送り・空振り・ファウル・インプレー打球の4つを基に計算していますので、インプレー打球とそれ以外の2つに分けてみました。それぞれの合計値が、その投手全体のストライク率になります。
 投手のタイプは大まかに3つに分類できるようで、大谷をはじめ右下に位置するのは三振を多く奪えるタイプ。反対の左上に位置するのは、メンドーサなど打たせて取るタイプ。右上に位置するのは両方のバランスが取れたタイプという感じです。グラウンド内に打たれずにストライクを重ねる右下のタイプは魅力ですが、一方で左上のタイプは球数を抑えられる傾向にあります。その特徴は一長一短といえるでしょう。

 ここで、メジャーに移籍する前田健太にも注目してみましょう。上の表は2007年以降、MLBに初挑戦した投手を対象に、その前年のNPBにおけるストライク率の内訳です(投球数が少なかった桑田は除く)。主に先発登板した投手は緑色で、リリーフは黄色でプロットしており、青線は過去10年間のNPB平均値となっています。
 年度が違うので一概に比較はできませんが、先発では松坂大輔とダルビッシュ有が、岩隈久志と田中将大が似たようなタイプとしてMLBに挑戦しました。また、意外にも黒田博樹は、NPBに復帰した昨季とほぼ変わらない数値になっています。アメリカで投球スタイルを大きく変えたといわれる黒田ですが、その基盤はメジャー挑戦前にできていたようです。前田はこの中では川上憲伸と似たタイプといえるかもしれません。

投球のターニングポイントを探る

 次はストライク率を投球数とカウント別に分析していきます。投球数とカウントによって、その打席での被出塁率はどのくらい変わるのでしょうか。ここでは、打席が継続しているときを想定して考えていきます。

 上の図は、過去10年間の被出塁率を投球数とカウントで段階構造にしたものです。1球目前の被出塁率は.322で、例えば初球にストライクを稼ぐと、その打席での被出塁率は.271、反対にボールだと同.376となります。被出塁率を抑えるためには、早いカウントから積極的にストライクを取る必要があるようです。
 また、3球の間に追い込むと、被出塁率は2割台前半まで抑えることができます。実は初球の結果と同じくらい“3球目までに追い込めるか”は重要で、仮に3球目でカウント1B-2Sにできれば、その後の被出塁率は.232となりますが、2B-1Sにしてしまうと同.389。もちろん、2球で追い込むのが投手にとって理想ではあるものの、1B-1Sとなった場合の3球目はターニングポイントといえるでしょう。

 最後に、規定到達者の投球数別の打者を追い込んだ確率を見てみましょう。優秀なのはマイコラスと石川歩。両投手ともに2球目までに30%を超える確率で、3球目までに70%に迫る確率で打者を追い込んでいました。ともに、打者よりも有利な状況を多くつくって勝負できていたようです。
 また、セ・リーグ防御率トップ2のジョンソンと菅野智之は2、3球目で追い込む確率はそれほど高くありませんでした。ですが、両者とも優秀な被出塁率を記録しており、カウントが悪くても挽回できる力があったことを証明しています。

 今回はストライク率をさまざまな角度から検証しました。もちろん、ストライク率の高さだけで投手の良しあしを判断することはできません。しかし、勝敗や防御率などからは分からない投手の特性を見いだすことはできました。現在、選手を評価する方法は無数に存在します。その中で、さまざまなデータを組み合わせて判断することが大切なのかもしれません。