TODAY'S HOT
  • 1980年4月20日 ソレイタ(日本ハム)が1試合最多本塁打(=4)を達成。 (vs.南海)
  • 1999年4月20日 五十嵐亮太(ヤクルト)がプロ初登板を記録。(vs.中日)
  • 1980年4月20日 ソレイタ(日本ハム)が1試合最多打点(=10)を達成。 (vs.南海)
  • 1999年4月20日 イチロー(オリックス)が通算1000安打を達成。 (vs.日本ハム)
コラム COLUMN

スイング率ヒートマップで見る、森友哉の異質さ

山田 隼哉

 バッテリーが打者に対する配球を考えるとき、最も知りたい情報はなんでしょうか。いくつかある中で、特に有益と思われるのが、「打者がどんなボールを待っているか」です。ストレート待ちなのか、変化球待ちなのか、ゾーンは外寄りに狙いを絞っているのか、それとも高めにポイントを置いているのか。こうした情報をつかめるだけでも、バッテリーの優位性は格段に高まります。

 もちろん、実際は相手打者の狙い球などそう簡単には分からないものですが、今回紹介するデータは、それを推察する上で、ある程度のヒントになるかもしれません。

データから推察する、川端や秋山の狙い球

 この図は、2015年シーズンのセ・リーグ最多安打、川端慎吾(ヤクルト)のスイング傾向をヒートマップ形式で表現したものです。黒い太枠内がストライクゾーンで、分割された各ゾーンの投球に対して、何パーセントの確率でスイングしたかを数値と色で示しています。色はスイング率が高いほど赤く、低いほど青くなっています。つまり、赤いゾーンはよくスイングするゾーン、青いゾーンはあまりスイングしないゾーンということです。

 このヒートマップから推察できる川端のスイング傾向は、

「高めのゾーンに対して積極的なスイングを見せ、多少のボール球でも手を出していく」

 といったようなものになります。この図を見る限り、おそらく川端が高めのゾーンを中心に目付けをしていることは間違いなく、いわゆる“ハイボールヒッター”の部類に含まれる打者と言えるでしょう。対戦相手やその打席の状況によって多様に変化する可能性はありますが、基本的には「川端は高め狙いの打者である」という考え方が当てはまりそうです。

 この図は、同じく2015年シーズンのパ・リーグ最多安打に輝いた秋山翔吾(西武)のスイング率ヒートマップです。秋山は川端と違い、低めのゾーンにも高い確率で手を出していることが分かります。また、高めのボール球をスイングする確率が川端ほど高くないことも読み取れます。このようなスイング傾向はわりと平均的で、目立った特徴がない分、相手バッテリーが打者の狙っているゾーンを推測するのはやや難しくなるかもしれません。

ひときわ異彩を放つ、森友哉のヒートマップ

 このように、打者のスイング率ヒートマップからは、どのゾーンを中心に狙っているのかなど、いろいろと見えてくるものがありますが、中でも、森友哉(西武)のそれは極めて異質と言えます。

 これが森のスイング率ヒートマップです。真ん中付近から内寄りのゾーンを好んでいることが分かりますが、驚くべきは低めのボール球を異常なほどスイングしていることです。通常、低めのボール球にここまで積極的に手を出す選手はなかなかいません。森は川端と対照的に“ローボールヒッター”の部類であると言えるでしょう。

 ボール球をスイングするのは基本的には良いことではありませんが、森の場合、低めのボールゾーンが“ホットスポット”であるという特殊な性質を持っています。長打率をヒートマップで見てみると、低めのボールゾーンで非常に高い数値を残しているのです。このゾーンにおける森の長打率はNPB全体でも一二を争うレベルで、本塁打も4本放っています。重心の低い独特なフォームが影響している可能性もありますが、いずれにしても、森が低めのボール球をスイングするのは、打てる自信があるからだということが推察できます。

 一方で、これだけ特徴的な傾向を持っている打者に対しては、対戦するバッテリーも具体的な対策を立てやすくなるかもしれません。一般的に有効とされる低めに沈む変化球などは、森にとってはむしろ絶好球となるため、少しセオリーとは外れた配球を考える必要がありそうです。例えば、インハイの速球などは効果がありそうなボールのひとつであると考えられます。

内角のボール球が見せ球にならない

 ここまで左打者を紹介しましたが、右打者で異質なスイング傾向を持つ選手を挙げるとすれば、松田宣浩(ソフトバンク)が代表的でしょう。彼のスイング率ヒートマップは一見するとおおよそ偏りなく手を出しているように映りますが、よく見ると非常に強烈な特徴を持っています。内角のボールゾーンを、ストライクゾーンと大差ない確率でスイングしているのです。

 プルヒッター、長距離砲という点でタイプが似ている中田翔(日本ハム)のそれと比較すると、いかに松田のスイング範囲が内角に広いかが分かります。普通の打者はほとんど手を出さないゾーンも、松田にとっては“打てるゾーン”ということのようです。

 松田の長打率ヒートマップを見てみると、やはり体に近いゾーンにホットスポットを持っていることが分かります。長打率1.250のゾーンはわずか4打数でしたが、2安打で1本塁打とその片鱗が見られました。相手バッテリーからすれば、見せ球になるボールをスタンドに運ばれるわけですから、恐るべき打者であると言えます。ただし、このように松田が体に近いゾーンを苦にしないのは、おそらくホームベースから離れた位置に立っていることが影響していると考えられます。内角を広く開けている分、ボール球でも窮屈にならずに済むことが多いのでしょう。実際、ホームベースから離れて立つ前の松田は、現在ほど内角の厳しいボールを打てていませんでした。

外角高めの平田、外角低めのバルディリス

 平田良介(中日)も比較的変わったスイング傾向を持った選手です。ヒートマップで見ると、外角高め付近のゾーンを好んでいることが分かります。平田が外角高めのボールをライト方向の深い位置に運ぶ姿は、なんとなく画が浮かびやすいのではないでしょうか。時折とんでもないボール球に手を出したりしますが、それだけ平田が外角高めにホットスポットを持っているということのようです。

 バルディリス(元DeNAなど)はアウトローを好む極めて珍しいタイプの打者です。彼のバッティングの特徴を語る際によく用いられる、外国人選手特有の「リーチの長さ」という表現はまさにぴったりだったと言えます。「困ったらアウトロー」は配球のセオリーとされていますが、バルディリスにとっては歓迎すべき教えだったのかもしれません。

俯瞰図で各打者のスイング傾向を整理する

 さて、全ての打者を紹介するわけにもいきません。そこで、2015年シーズンに左右いずれかの打席で2000球以上投じられた打者のスイング傾向を俯瞰図にしてみました。森や松田のように偏りがある選手ほど、中心点から離れた位置にプロットされる仕組みになっています。プロット位置の決定方法は複雑なので割愛しますが、スイング率ヒートマップの結果が基になったものです。これを見ると、いかに森や松田が異質な存在であるかが分かると思います。

 ひとりひとりのスイング傾向を「良い・悪い」で評価することは非常に難しく、なんとも言えない部分が多々あります。しかし、打者の特徴を表現する上では有意義なデータであることが今回の分析を通じて分かりました。また、私たちのようなアナリストの立場からすれば、実際にチームがこうしたデータをどのように活用しているのかは大変興味深いものです。選手やコーチは、相手打者のスイング傾向を知ったとき、どのようなことを考え、戦術に反映させるのでしょうか。今後もこうした発信を続けながら、より良いデータの活用方法を提案していきたいと思っています。