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コラム COLUMN

投手はひじ・肩、野手は下半身に故障のリスク NPBメディカルリポート2014

佐々木 浩哉

 Baseball LABでは選手の一軍登録・抹消の詳細など、選手の登録にまつわる公示情報を公開しています。オフィシャルに発表される情報だけでなく、独自に調査した登録理由、抹消理由などもあわせて記載しています。例えば2014年9月28日長野久義の抹消ケースでは、「右膝痛のためで、故障による抹消はプロ5年目で初という。今季は打率3割にわずかに届かず、本塁打13本は自己最少。」といった具合です。

 本稿ではこうして収集した公示情報(+α)を基に、プロ野球メディカルリポートの作成を試みたいと思います。対象は2014年3月26日から10月7日まで、故障者のカウントはシーズンで一度でも一軍に出場した選手に限って行います。館山昌平(ヤクルト)などシーズン全休、あるいは一軍未昇格だったケースは含めません。

球団別の故障傾向

 2014年、シーズン中に最も多くの故障者を出したのはロッテでした。投手で8人、野手で12人が戦いのさなかで戦線を離脱しました。抹消日数100日を超える選手が3人おり、里崎智也(捕手)、内竜也(中継ぎ)、荻野貴司(中堅手)といずれもレギュラークラス。なかなかベストメンバーを組めず苦しいシーズンを過ごしました。


 反対に最も故障者を出さなかったチームがオリックスでした。シーズン中の故障による離脱者は4人に留まり、しかもマエストリはへんとう炎、坂口智隆は発熱と、故障というよりも疾患の類いで早期に一軍へ復帰しています。故障者の一軍復帰までに要した日数の合計は、ロッテの960日に対してオリックスは46日。実に20倍以上の差が付きました。


 とにかく故障者の多い印象を持たれがちなヤクルトは、故障者数で12球団の6番目、抹消日数の合計で3番目の多さでした。シーズン中の故障者という意味では、格段に多いというわけでもありませんでした。ただし投手の故障者数(8人)、抹消日数(584日)はいずれもワースト(故障者数はロッテとタイ)で、台所事情の厳しい中で難しいやり繰りを強いられた感は否めません。


 12球団全体の傾向としては、シーズン途中で離脱する選手はおおよそ13、14人ほど。抹消日数の合計は500日から600日くらいが平均的な数字となっています。

故障部位

 故障の発生部位は投手と野手で傾向が分かれました。投手はやはりひじや肩、指を痛めるケースが多く、商売道具である腕の故障が過半数を占めます。特にひじの故障は投手の故障の1/4となっていて、多発するひじの故障が問題視されているアメリカと同じ傾向を見せています。ひじの故障による抹消日数も平均で64日と長く、復帰まで2カ月以上要しています。抹消日数の長さでいえば、ひじ以上に時間が掛かってしまう箇所が腰でした。発生頻度こそ高くありませんが、発症した村中恭兵(ヤクルト)は90日、川上憲伸(中日)は152日(故障後一軍復帰ならず)も一軍から遠ざかってしまいました。

 一方の野手は故障部位が比較的分散する傾向となっています。投手と比べると下半身の故障が目に付き、また足首は復帰まで平均で約72日、ひざは64日と長期化する傾向が見られます。発生割合の最も高かった太ももは平均29日で、復帰までの期間が比較的短く済んだのは不幸中の幸いでしょうか。ただしシーズンで3度の登録抹消に追い込まれたブランコ(DeNA)のように、再発危険性の高さが太もも故障の大きなリスクといえます。

期間別傾向

 期間別の故障発生傾向としては、投手・野手ともに8月の件数が最多となりました。特に投手は8月を除いて10件を超えた月が無かっただけに、故障者の多さが目立ちます。菅野智之(巨人/指の故障)、一岡竜司(広島/肩)、濱田達郎(中日/ひじ)、八木亮祐(ヤクルト/太もも)、石川歩(ロッテ/指)、松永昂大(ロッテ/ひじ)など、若手から中堅の働き盛りの投手による故障が相次いだ点もこの期間の特徴です。シーズン前半からの疲労の蓄積がコンディション不良につながったのかもしれません。

年齢別傾向

 年齢別に見ると、やはりベテランほど故障のリスクが高くなります。34~36歳の選手、37歳以上の選手は一軍登録選手のおよそ1/3が故障による登録抹消を経験しています。復帰までの期間が長引く傾向も見せていて、34~36歳の選手は平均で約57日、37歳以上の選手は62日もの日数を要しています。ただし単純に若いほど回復が早いという訳でもなく、19~21歳の選手でも平均で47日間の抹消期間を経験しています。故障リスクは低いものの、一度ケガをすると多くの時間を費やしてしまうことは避けられないようです。故障発生によるリスクを真剣に理解し、関心を持って予防に取り組む積極性がプレーヤー、及び管理責任者に求められます。

故障による損失の推定

 最後に少し角度を変えて故障データを検証します。故障者の多さはチーム力の低下はもとより、高額な年俸を支払っているプレーヤーの活動に支障が出ることでコストの浪費にも直結します。故障者の発生によってどれほどの金額が動くか、故障による登録抹消期間と年俸データを用いて推定してみました。まず年俸をプロ野球選手の契約期間である2月1日から11月31日までの303日で割り、選手個々の日割りの年俸を算出します。この値に抹消日数を掛けて「損失」を概算します。これをチームごとに合算することで、シーズン中の故障による損失を比較します。


 昨年の12球団で最も大きな損失を被ったのはソフトバンクで、約2億5000万円を計上しました。故障者の数自体は12球団で3番目に少ない11人でしたが、高額年俸のウルフ(6930万円)や攝津正(4752万円)の離脱などでコストがかさみました。2番目に損失の大きかった中日も故障者数は11人と比較的少ない球団でしたが、岩瀬仁紀(7203万円)や和田一浩(5033万円)、吉見一起(4306万円)らがコストを押し上げてしまいました。故障リスクの高いベテランは年俸も高額であることが多く、そのままコスト面でのリスクにつながります。


 高リスクのベテランを抱えていても損失を低く抑えられているオリックスのようなケースもあります。オリックスの損失は1119万円。各球団がおおよそ1億5000万円ほど損失を計上しているのに比べ、ごく浅い傷で済ませることができました。2014年のチーム躍進への献身もさることながら、コンディショニング部門の陰の貢献度はとても大きいものと言えるかもしれません。