TODAY'S HOT
  • 2003年4月27日 ロッテが球団6000本塁打を達成。 (vs.西武)
  • 1988年4月27日 真弓明信(阪神)が通算1500安打を達成。 (vs.大洋)
  • 1997年4月27日 松井秀喜(巨人)が通算100本塁打を達成。 (vs.広島)
  • 2005年4月27日 館山昌平(ヤクルト)がプロ初勝利を記録。 (vs.巨人)
コラム COLUMN

甲子園の魔物 統計で捕獲!?

慶應義塾大学 大学院経営管理研究科 修士課程 辛郷孝、髙橋寛宜、百武隆太、浦上清敬、角井宏行

‐幽霊の 正体見たり 枯れ尾花‐

 夏の幽霊の正体の相場は、枯れ尾花である。恐怖心や疑いの気持ちがあると、何でもないフライやアウトひとつまでが恐ろしいものに見えるのではないか。甲子園の魔物も、どこかの湖の恐竜や未確認飛行物体などの属性に位置するかもしれない。

 この一連の魔物論争に終止符を打つべく、我々は魔物と対峙する決意を固めた。

 そもそも甲子園に潜む魔物とは、いったい何なのか。昨年8月14日の東邦対八戸学院光星との試合は、記憶に新しい所である。2-9と東邦が7点を追う展開で迎えた7回裏から、甲子園球場は異様な空気へと変わっていった。7点差の中、笑顔でプレーする姿、必死で白球に食らいつき、守備でファインプレーを繰り広げる姿に、甲子園の観客は引き込まれていく。満員の観客達が、一斉に手拍子と「we are TOHO」の合唱、ハンカチを振って東邦を応援するという異様な光景がそこにはあった。この後、各メディアはこぞって、この試合に「甲子園に魔物が現れた」と報じたのである。

‐魔物の炙り出し‐

 甲子園において、ほぼ勝利を手中に収めたチームが終盤でまさかの大逆転負けを喫した際、「甲子園の魔物が現れた」と、メディアは報じる。しかし大逆転とはいってもそれは、何点差の逆転なのか、終盤とは何回以降を指すのだろうか。そこで我々は「魔物」の定義を整えるべく、「甲子園の魔物が出た」という表現で記事になっている試合を集めてみた。(「魔物なのか?」などの、出現と断言出来ない記事は今回含めない。)

以下、甲子園の魔物が登場した試合として検索記事が多かった5試合

 甲子園好きな方は記憶に焼き付いている試合の数々である。一旦、この5試合が網羅されるような定義を考えた。

<定義>
① 7回1アウト ランナーなしからの逆転であること
② 逆転した側は最終的に勝利すること
③ 逆転した側は、逆転劇が始まるタイミングから、1アウトにつき0.8点以上得点していること

③ の定義が分かりづらいので例を出すと、9回ノーアウトから1点差を逆転サヨナラした場合は、3つのアウト内で2得点なので得点力は2得点÷3アウト=0.666点 <0.8 となり、定義外である。9回1アウトから1点差を逆転サヨナラした場合は、2つのアウト内で2得点なので得点力は1であり定義内であるので、この試合は魔物である。

以上の定義から、過去10年分の試合を検証し、魔物試合を抽出すると、下記のような結果となる。

夏の甲子園 魔物試合一覧

 集計した487試合で11試合が魔物試合のため、魔物出現確率は2.26% / 1試合となった。改めてこの11試合をネット検索した結果、すべての試合で「甲子園の魔物が現れた」とメディアが報道していた。また、本定義からほんの少しばかり外れている逆転試合が約10試合あり、調べた結果、「甲子園の魔物が出現した」という表現は使われていなかった。

‐魔物は阪神戦でも現れているのか?‐

 魔物が甲子園球場にいるお化けのような存在であれば阪神戦でも頻出しているはずである。過去10年の甲子園球場で行われた阪神戦で、定義が当てはまる試合があるか検証を行った。

過去10年の阪神戦@甲子園球場にて定義に該当する試合を抽出

 驚くべきことに、阪神戦の方が魔物試合の総数(15試合)、出現率(2.47%)ともに高校野球を上回っている。つまり、魔物は甲子園球場に、常駐しているのだ。

 ところで、阪神戦での魔物試合はどのような記事になっているのだろうか。1試合紹介したい。

<2015年【ロッテ 6—3 阪神】*9回表にロッテが4得点して逆転勝利(魔物定義内)>
上記の試合後の記事は、「呉 昇桓まさかの乱調」「ロッテ角中が逆転満塁弾」など個々人の責任とする記事が占めており、魔物というキーワードは登場しなかった。さすが社会人である。言い訳をしないことが、社会の流儀なのだ。

‐魔物は理論値を超えるのか‐

 まず、これまで蓄積された甲子園の試合記録から、甲子園試合を再現し、実際の魔物出現数と、再現試合にて現れた魔物定義に当てはまる試合数を比較する。ただし、以下に挙げる高校野球とプロ野球における得点力の違いを考慮し、再現プログラムを作成した。

 以下の図は、2007~2016年のイニング毎得点の集計である。高校野球とプロ野球では、平均得点の差だけでなく、イニング毎で得点量にばらつきが生じている。試合再現の際は、実績データに基づき、ばらつきを反映させることとする。

2007~2016年のイニング毎得点の集計

 また、下図において甲子園の阪神タイガースは、常に後攻であり、ホーム試合では勝率が高く、得点量も先攻より多いと想定される。プロ野球試合のシミュレーションに際しては、先攻と後攻の得点量の差を反映させる。

2007年~2016年の阪神タイガース戦@甲子園のイニング毎の得点量を集計

 以上の点を考慮し、各イニングの得点量と確率分布を集計し、モンテカルロシミュレーションにて10,000試合を生成する。

※モンテカルロシミュレーションとは、フランスにあるカジノ名を元についた統計手法。 例えばルーレットのように、次に玉が入る場所を完全に予測できないことが、世の中には数多く存在する。 翌日の株価、人員需要、在庫など「前もって予測できないこと」をシミュレートするのが モンテカルロシミュレーションである。
具体的には、様々な事象を乱数に対応させ、数千回から数万回 にわたって乱数を発生させて対応した事象が何回発生するか、どれくらいの確率で起こるのか、 などをシミュレートする手法である。

【生成方法】
高校野球及びプロ野球の違いを考慮し、各イニングの得点量と発生した回数を元に、確率分布を集計し、試合を生成する。

参照元:全国高等学校野球選手権大会 スコア記録(2007年~2016年) 
    甲子園でのプロ野球試合 スコア記録(2007年~2016年)
方 法:モンテカルロシミュレーション
回 数:10,000試合(甲子園約200年分)

【使用する確率分布】
高校野球:前半(1~3回)、中盤(4~6回)、終盤(7~9回)および、
先攻・後攻に分類した計6つ。
プロ野球:先行・後攻に分類した計2つ。

【生成結果】

【結論】
今回再現した方法による魔物出現率は、 実際>シミュレーション となる。つまり、甲子園の魔物は我々の理論値の範疇を超えていた。理論値を超えた存在であるからこそ、我々は甲子園の魔物に魅了されているのであろうか。もはや本調査も、魔物が我々を突き動かしたといっても、過言ではない。

おい、魔物よ。今年も、俺らを楽しませてくれよ。

‐おまけ 魔物出現予想‐

 そんな魔物はいつ出るのか。予想してみることにしよう。

 まずは過去10年間で魔物が出た高校を抽出してみた。ここで一つ驚くべき事象が分かる。なんと、都道府県別では1回ずつしか魔物は出ていない。2017年の甲子園出場校で魔物が出現していない高校(都道府県)は以下参照。

 しかし例外がある。そう、広島県 / 広陵高校である。広陵高校には過去2回(2007年、2014年)魔物が出現している。広陵高校の皆様および関係者の方々は、魔物の出現にくれぐれもご注意頂きたい。

 そして、魔物は何回戦で現れるのか。過去の魔物出現試合を検証すると、下図の状況である。これを回戦毎の試合数で出現率に補正をかけた場合、魔物は準々決勝以降に出現する可能性が高いことが分かった。魔物は、皆の注目度が高まりかけた準々決勝以降、その瞬間を狙っている。

 今年の準々決勝は8月19日(土)予定である。これは、もう観るしかない。重ねて注意喚起するが、広陵高校の皆様および関係者の方は、準々決勝以降に進出した場合は魔物の出現に注意頂きたい。

 以上、甲子園の魔物を、統計を武器に捕獲を試みた。お楽しみいただけただろうか。