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コラム COLUMN

BABIPが意味するところと、その解釈の難しさ

佐々木 浩哉

 「本塁打を除いた打球がヒットになる確率」。言葉にするとシンプルであるように感じられますが、実のところとても解釈の難しい指標が今回のテーマである「BABIP」です。2015年から札幌ドームの新大型ビジョンの打者成績欄にも採用されるなど、数あるセイバーメトリクスのスタッツの中でも認知が広がり始めている指標のひとつです。

 BABIPはよく「運」の強弱を示す数字であるといわれます。これは「フェアゾーンに飛んだ打球がヒットになるかどうかは、投手ないし打者個人の能力“だけ”で決定できない」事実に由来していて、実際にこの確率は平均して大体3割前後の数字に収束することが分かっています(投手の打席を除く、1990年から2014年の全打者合計のBABIPは.301)。強い打球が野手の正面をついて不運にもアウトになってしまったり、当たり損ねの打球が幸運にもヒットとなるのは野球の世界においてよくあることです。

 BABIPの不確実性を示す一例として、年度間相関の低さも挙げられます。

 年度間相関とは、連続する年度でどの程度再現性があるかを示す値です。ここでは1990年から2014年まで、2シーズン連続で200打球(Balls In Play)以上記録した打者を対象として2年間のBABIPの相関係数を算出しました。値は0.27で、無関係とはいわないまでも非常に弱い水準の相関でした。シーズン単位のBABIPはランダムな動きを見せる傾向が強く、翌年の数字を正確に予想するのは非常に難しいのです。

 ただし、BABIPは「完全」に運に左右される数字ではないこともまた、分かっています。

BABIPと打者のタイプ

 左の表は打者の指標とBABIPの相関を表しています。2008年から2014年まで、7年間合計で800打球(BIP)以上の成績を残した打者を対象とし、各指標とも7年間の合計値をサンプルとしました。指標の算出式等は以下の通りです。

ライナー率 / ライナー性の打球÷総打球
Speed Score / 走塁能力を数値化した指標
内野安打割合 / 内野安打÷安打
コンタクト率 / コンタクト÷スイング
ウェルヒット率 / 芯で捉えた打球の割合
IsoP / 長打率-打率

 上の6つの項目で目立って強い相関を示した指標はありませんでしたが、弱いながらも関係を見いだせそうなのがライナー率とSpeed Scoreでした。俊足でライナー性の打球を高確率で打てるタイプの選手は、BABIPの面でわずかに恵まれた存在であると解釈できます。

 逆に強打者を表す指標であるウェルヒット率やIsoPには相関が見られませんでした。これはパワーヒッターに“足で稼げる”タイプが少ないことや、BABIPの母数からはじかれてしまう本塁打の多さが関係していると見られます。BABIPに関していえば、強く高い弾道よりも低く強い弾道の方が有利となっている様です。

 運に左右される余地の大きいBABIPですが、打者のタイプとも緩やかな関係を持っていることは頭の片隅に置いておきたい事実です。

「真のBABIP」

 先行研究によると、BABIPは800打球以上のサンプルを得て初めて安定的な数値を見出せるとされています。上の散布図は1950年以降の打者のキャリアBABIPと打球(BIP)の関係をプロットした図です。打球が増えるほど、上下の散らばり(BABIPの上下)が小さくなっていることが見て取れます。

 赤のラインは800打球を示しています。必ずしも明確な境界線というわけでもありませんが、800打球未満の選手の奔放な分布と比較すると、この辺りに一線を引くのは妥当であるように思われます。800打球という数字は、レギュラー格の選手でおおよそ2シーズン相当です。これぐらいの実績を積んでいないと、選手個々の「真のBABIP」を特定するのは難しいと言えます。

 巨人の坂本勇人のBABIPを例に見ていきましょう。上のグラフは2011年と2012年のシーズンBABIPの推移を示しています。およそ好対照な動きを見せている2シーズンですが、ともに打球(BIP)が200に差し掛かったあたりから安定的に推移しているように見えます。高BABIPの年も低BABIPの年も、ペナントレースの期間中に目安とされる3割へ“収束”することなくシーズンを終えました。

 2014年終了時の坂本のキャリアBABIPは.308。すでに1000打球以上を積み重ねていた坂本は、2011年当初の時点でほぼこれに近いキャリアBABIP(正確には.3079)を残しています。そして2014年に至るまで、キャリアBABIPに大きな動きは無く安定していることが分かります。シーズン単位で切り取ると大きな動きを取っているように感じますが、キャリアトータルで見ればわずかな変動にすぎません。

 「真のBABIP」を測るためには時間が掛かります。そして、シーズン単位のBABIPに一喜一憂することにはあまり意味がありません。また、年度間相関が示唆している通り「高いBABIPを残したシーズンに反動が起こる」とは断言できず、その逆もまた同様です。

 さらに複雑なことに、選手の能力は長い年月の間で不変ではありません。2010年の坂本と2015年の坂本が別人のようなバッターであったとしても不思議なことではなく、ここに一定以上の母数が必要となるBABIPの前提条件とのアンビバレンツが発生します。BABIPの解釈の難しさはこの辺りに起因しています。一言で説明することのできないセイバーメトリクスの指標として、BABIPはその最右翼にあると言っても良いかもしれません。

「運」が支配する領域

 最後に興味深いデータを提示して終わりとしたいと思います。本稿の前提として提示した「BABIPの再現性の低さ」ですが、実は対象年度を1950年まで広げると相関係数が0.27から0.44まで上昇します。つまり過去のNPBにおいて、「BABIPの高い(あるいは低い)選手は翌年も同じ傾向を続ける」可能性がアトランダムではないということです。これは道具や施設環境の充実も含めた競技レベルの向上が関係していると推測されます。

 現代野球では、猛烈に打てない選手やまったく抑えられない投手はプロの選手として一軍でプレーすることが難しくなっています。選手の技術レベルが底上げされて攻守に能力が拮抗した結果、インプレー打球がヒットになる確率は非常に微妙な差、つまり運の要素に頼る範囲が拡大していると考えられます。

 今回は打者のBABIPを中心に論を進めてきました。しかし厳密に言えば、打者のBABIPと投手のそれは意味合いがまた異なります。不確実性という面では投手の被打球の方がより複雑で、今回の検証とはまた違った角度で数字を検証する必要があります。

 ただでさえ、目にもとまらぬスピードのボールを広大なグラウンドに打ち返すのが野球というスポーツです。「運」の要素を考慮に入れずして競技の本質を理解することは叶いません。BABIPが示すのは「単なる運」ではありませんが、野球というスポーツの理解を手助けするためのツールとして、とても大切な数字であるということは間違いありません。