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コラム COLUMN

侍ジャパンは“初物に弱い”のか

山田 隼哉

 初めて対戦する投手をどう攻略するか――。

 野球の国際試合での戦いにおいて、常に付きまとう課題です。3月10、11日に行われた「ひかりTV 4K GLOBAL BASEBALL MATCH 2015 侍ジャパン 対 欧州代表」の2試合でも、侍ジャパン打線は、対戦したことがない欧州代表投手への対応に思いのほか苦戦しました。今後世界と戦っていく上では、初対戦の投手への対応力も高めていくべき要素となるかもしれません。

初対戦は投手が有利

 打者が投手と初めて対戦する際は、ボールの軌道や投球の傾向に関するイメージや情報が乏しいため、何度も対戦している投手に比べて打つのが難しいというのが定説です。実際にそれはデータにも表れていて、打者が投手と初めて対戦した打席とそれ以外の打席のOPSを比べると、初対戦の打席の方が明らかに低い数字が出ています。やはり、初対戦は投手の方が有利であり、逆にその中で結果を残せる打者は高く評価できるということになります。

楽天・銀次の驚くべき対応力

 では、近年侍ジャパンに選出されている選手たちは、初対戦の投手に対してどのような成績を残しているのでしょうか。今回のコラムでは、小久保裕紀監督の就任後に侍ジャパンに選出された選手を対象に、そのデータを見ていきます(ただし、サンプル数が少ない日本ハム・岡大海は除きます)。データはNPBの試合を対象としますが、打者と投手の初対戦の機会はさほど多くないため、2012年から2014年の3シーズン分を合算して求めました。また、一軍公式戦のみを対象とし、ファームやオープン戦、ポストシーズンでの対戦は含みません。

 それでは早速データを見ていきましょう。初対戦の打席のOPSが高い順に並べました。上から見ていくと、まず楽天・銀次の好成績が光ります。驚くべきは、初対戦以外の打席よりも初対戦の打席の方が、OPSが.100以上も高いということです。その点では同じく楽天の嶋基宏や、DeNA・筒香嘉智にも共通した傾向があります。彼らはイメージや情報が乏しい初対戦の投手を相手にしても、本来の打力を存分に発揮できる打者と言えるでしょう。

 ちなみに、外国人投手との初対戦に限定すると、銀次は30打数12安打で打率.400という数字を残しています。同条件においては、DeNA・梶谷隆幸とソフトバンク・松田宣浩もOPS1.000以上という好成績を残していました。サンプル数は少ないものの、対戦経験のない外国人投手への対応力は、国際試合での戦いにおいて重要な要素と言えます。

 表の下の方に目を向けると、普段は高いOPSを残していながら、初対戦の打席ではなかなかその打力を発揮できていない選手がいます。日本ハム・中田翔や広島・丸佳浩、ヤクルト・雄平などがそうです。彼らは相手投手に関するイメージや情報が乏しい中での対戦に、何らかの課題を抱えているのかもしれません。

 また、巨人・坂本勇人は初対戦の打席でOPS.552という厳しい数字が残っていました。実績、若さのどちらを取っても、彼が日本を代表するショートストップであることは言うまでもありませんが、初めて対戦する投手との勝負では、パフォーマンスが著しく低下しているようです。

積極的なスイングが効果的とは限らない

 次に、各打者が初対戦の打席で、どのようなアプローチを行っているかを見てみましょう。「初対戦では積極的なスイングが重要」というのもまた定説としてありますが、そのようなアプローチを実践している選手はどのくらいいるのでしょうか。

 このデータは、各打者のファーストストライクに対するスイング率を初対戦の打席とそれ以外で算出し、その差が大きい順に並べたものです。つまり、上の方の選手ほど、初対戦の打席で普段よりも積極的にスイングをしているということになります。最右列の「OPS差」は、初対戦の打席とそれ以外のOPSの差を示しています。

 これを見ると、まず初対戦の打席では普段よりもスイング率が下がる選手が多いということが分かります。これは侍ジャパンに選出された選手に限らず、NPB全体にも言える傾向でした。やはり、対戦したことのない投手を相手に積極的に振っていく、というのは難しいことなのでしょう。

 そのあたりも踏まえて見ていくと、先ほどのデータで取り上げた銀次や嶋は、初対戦の打席で比較的積極的にスイングを行っているようです。意識的なものかどうかは分かりませんが、「初対戦の打席では積極的なスイングが重要」という定説を実践している格好と言えるでしょう。ただし、彼らと同じく初対戦の打席でのOPSが優れていた筒香にはその傾向は見られません。必ずしも積極的な打撃をすることが好結果を残すための条件とは限らないようです。

 また、ソフトバンク・内川聖一に関しては、初対戦の打席では慎重にボールを見ていこうという意識からか、スイング率が普段よりも大幅に低下しますが、先ほどのデータにあるように結果的には打率.326、OPS.834という好成績を残しています。やはり、初対戦の打席での積極性が成績面にインパクトを与えている可能性は低いようです。

おかわり君は“初物に強い”

 ここまで、近年侍ジャパンに選出された選手を対象に、初対戦の打席での対応力やアプローチの違いを見てきました。最後は、その他の選手の成績を見てみましょう。2014年シーズンに400打席以上立ち、なおかつ過去3シーズンの初対戦打席のOPSが.800を超えている選手たちです。

 西武・中村剛也はこれまで大きな国際大会で代表に選出された経験がありませんが、このデータを見る限り、初対戦投手への対応力は高いようです。成績の詳細は83打数23安打で8本塁打。また、外国人投手との初対戦に限定すると、中村は18打数8安打、4本塁打という圧倒的な数字を残していました。健康面の問題などはありますが、代表チームの主軸候補として、魅力的な存在であることは確かなようです。

 いずれにしても、初対戦の投手への対応力は国際試合での戦いにおいて、無視できない要素と言えます。もともと持っている打力の高さはもちろん重要ですが、それをどんな相手に対しても発揮できるだけの対応力がないと、どうしても打線は湿ってしまいます。もちろん、一朝一夕にして解決するような問題ではありません。少しずつ、“国際試合で打てる打者”というものについて考え、答えを出していく必要があります。