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イベントレポート EVENT REPORT

7/21 「勝てる野球の統計学 セイバーメトリクス」トークライブレポート

田中 秀典

7/21『 勝てる野球の統計学 セイバーメトリクス』トークライブ開催 

Baseball LAB編集部の田中です。7/21(月・祝)に東京カルチャーカルチャーで「勝てる野球の統計学 セイバーメトリクス」のトークライブを開催しました。私はイベントの全体管理や当日の挨拶、運営を担当させて頂きました。

大盛況によりほぼ満席!

 当日は99名のお客様が来場し、ご覧の通りほぼ満席となりました。2時間半という長丁場でしたが、皆さん真剣にスクリーンを見ながらトークを聞いていました。ここからは内容について振り返りたいと思います。まずは出演者の紹介です。

出演者紹介(1)

データスタジアム株式会社

ベースボール事業部アナリスト

金澤 慧(かなざわ けい)

 

 アナリストとして、分析レポートをプロ野球チームに提供。野球データを生かしたエンターテインメントの制作にも数多く携わっており、NHK BS1で放送された「ザ・データマン」には守備を評価する指標「UZR」の解説役として出演。

当日のイベントでは進行役も務めました。



出演者紹介(2)

データスタジアム株式会社 
ベースボール事業部
山田 隼哉(やまだ じゅんや)

 データの品質管理およびデータ処理業務の中心的役割を担い、データ入力のエキスパートとして年間100試合以上の入力実績あり。テレビ局へのデータ提供も担当し、シーズン中は各局の野球中継を陰から支える。

イベントではさまざまな選手の特徴についてコメントしました。

出演者紹介(3)

統計学者
鳥越 規央(とりごえ のりお) 

 2006年、あるテレビ番組の企画をきっかけにデータスタジアム社と懇意になり、スポーツデータ解析に着手。2007年スタンフォード大学留学時にアメリカ野球学会へ参加。
これまでの著書「9回裏無死一塁でバントはするな」「プロ野球のセオリー」「本当は強い阪神タイガース」など。現在、AKB48グループペナントレースのルール監修を担当。

統計学の視点で野球の構造について色々解説して頂きました。

出演者紹介(4)

ゲスト

山本 一郎(やまもと いちろう) 

 2000年、IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作を行うイレギュラーズアンドパートナーズ株式会社を設立。ベンチャービジネスの設立や技術系企業の財務・資金調達など技術動向と金融市場に精通。著書に『ネットビジネスの終わり』『投資情報のカラクリ』など多数。


当日はMLBにおけるセイバーメトリクスの活用事例などの解説もしながらも、時に笑いあるトークで会場を盛り上げてくれました。


2013年のトークライブ振り返り

 自己紹介の後は、昨年のトークライブの振り返りを行いました。実はトークライブは初ではなく、以前Baseball LABのイベント開催コラムでも取り上げたように昨年の冬に「プロ野球の統計データ活用術!!」というイベントを2回に分けて実施しました。昨年のインベトでも取り上げた、7回以降ビハインド時の連敗データを出した時には単に連敗しているというだけにとどまらず、何故このように連敗をしてしまうのか?といった解説が出演者よりされました。

WPA(Win Probability Added)の解説と課題

 続いて鳥越氏によるWPA(Win Probability Added)という指標の解説になりました

 WPAとは、各選手がチームの勝利にどれだけ貢献したかを表す指標であり、各プレーの前後のシチュエーション(イニング・点差・アウトカウント・塁状況)から、チームが勝利する確率を求め、選手がプレーによってどれだけその確率を変動させたかで貢献度を評価するものです。

 例えば「6回表0-2で負けており、負けているチームの勝率が4割だとした時に、ある打者が3ランを放ち、3-2と逆転したことでチームが優位になり勝率が7割になったらその増加した3割分がその選手の貢献となる」という例などを用いながら説明しました。

 ただし、ここでは山本氏から「残りイニングが少ない終盤の得点は勝利への影響が大きいのは確かである。そのためWPAという指標の構造上、どうしても終盤に活躍した選手が優位になってしまう。では、序盤に出塁や連打によりチャンスを拡大した選手や先制打を打った選手は貢献が低いかというそれは違う。そこで最近のMLBでは『環境整備』という観点から、序盤の先制点に絡んだり、チャンスをつくった人もしっかり評価しようという動きがある」という解説がありました。

得点と失点から勝率を求める

 次に現在では知っている方も増えてきているピタゴリアン期待値ですが、得点と失点を争う他のスポーツにも転用できる点や、NPBに置き換えた場合は2乗より当てはまりの良い指数の解説なども鳥越氏を中心に解説しました。

ようやく・・・・本日のメニュー

 前置きで時間を取ってしまったため、当初の予定より押してしまいましたが、こちらが当日のメニューになります。

野球アナリストの分類

 こちらのスライドは「勝てる野球の統計学 セイバーメトリクス」でも用いられた図表ですが、野球におけるアナリストの分類を解説しました。主にID野球とセイバーメトリクスの違いにおいてはアンケートでも「このあたりが混同してたが、良く分かった」という意見もあったため、納得感も得られた方も多いのではないでしょうか。

反響の大きかった「得点期待値」と「得点確率」

 次に得点期待値と得点確率について解説しました。得点期待値も得点確率もイベントでは実数を出しましたが、得点期待値とは無死二塁からは「1.040点」、無死満塁からは「2.200点」というように、その場面が発生してからの期待できる得点になります。得点確率は得点の数ではなく、無死二塁からは「58.9%」、無死満塁からは「83.7%」というように、得点そのものが入る確率になります。
 全てのアウトと全ての塁状況を掛けあわせた24種類の得点期待値と得点確率を解説しました。「無死満塁は得点が入らない」という話も聞きますが、実際はやはり最大のチャンスであることには違いなく、得点期待値は一番高い数値でした。詳細はこちらの得点期待値コラム(前編)でも掲載しています。

 さらに年度ごとで違いがあるのかなどにも掘り下げていきました。年度毎で構造的な逆転が起きることはないものの、統一球導入後の2011年、2012年は得点が入らなかったため、全体的に得点確率と得点期待値が左下に下がるという結果がでました。
 このように得点確率と得点期待値は選手毎やチーム毎に算出するものではありません。過去10年以上といった莫大なサンプルから平均値を導き出すことで、「野球の構造」を見ることができると捉えると良いと思います。

無死一塁と1死二塁についてトーク!

 ここでは無死一塁と1死二塁という状況に絞ってのトークとなりました。現在では目新しいものではないですが、無死一塁から1死二塁にすることは得点確率、得点期待値と共に下げるという結果の解説となります。主に送りバントが発生する場面ですが当日の解説やこちらの得点期待値コラム(後編)の最後にも触れたように、ここでもあくまで平均値であることに注意しなければならず、打席に立っている打者やその後の打者など考慮することで、いかなる状況においても否定されるものではないことを解説しました。

 

 また、この場面では当社のお客様からもお問い合わせが多い『「バントからの1死二塁」と「バント以外の1死二塁」は違うのではないか?』ということにも触れました。ここでは数字の提示はしなかったですが、「基本的に1死二塁は1死二塁であり、無死一塁のバントからでも、二塁打でも、単打後の盗塁でもプロセスによる得点確率と得点期待値の変化はない」という説明をしました。ここでは時間の関係で数字の提示と解説ができなかったので、納得できなかった方もいらっしゃったかもしれません。この数字に関しては出演者の鳥越氏と元巨人、横浜で活躍された仁志敏久氏との対談形式の書籍である『プロ野球のセオリー 「データ」は「経験」を超えるのか』で当社から提供したデータが掲載されております。さらに鳥越氏と仁志氏におけるバント議論が展開されるという読み応えのある内容となっております。


プレーを得点に置き換える

 次に当社アナリスト金澤より「プレーを得点で再評価」の説明をしました。得点期待値から導き出す、本塁打や二塁打などの1本ごとの得点価値の説明をしました。

 また、単打と失策出塁では何故数値が異なるのかという疑問が出演者からありましたが、単打の場合は打者走者が1塁で止まることが多いのに対し、失策出塁はさらに進塁する可能性があるためのその差ではないかという説明をしました。

 ここでの「プレーを得点で再評価」」の考え方は、後半戦の12球団ごとのポジション別戦力分析に関わってくるところでもあります。

重視する3つの指標

 ここで話は変わり、山本氏から3つ指標が重視される理由が説明されました。OBPにおいてはOPS:出塁率+長打率やNOI:(出塁率+長打率/3)×1000を交えながら説明しました。

 次に、BB/Kについてはかなりメジャー指標になりつつありますが、単なる三振と四球のデータでなく、その数値から読み取れる選手の傾向の話がありました。

 当社の山田がNPBでxFIPが優れている投手の説明をしましたが、TOPはオリックスの金子千尋投手と日本ハムの大谷翔平投手でした。

 特にOBP、BB/Kは単純な指標でありながら、その先に見えることの説明は発見的な要素が詰まっていたのではないでしょうか。

クイズコーナー&UZRの課題

 その後はクイズコーナーに移りました。事前にクイズを配布してお客様に挙手で回答して頂くというコーナーで、鋭い観点から正解するお客様もいらっしゃいました。当社山田が執筆したこちらのコラムで取り上げた選球眼に関する話も出ました。
 しかし、このコーナーで一番の見どころはUZRの部分ではなかったでしょうか。近年日本でも守備指標として注目されるUZRですが、今までの失策数や守備率と比較すると、飛躍的な進歩があるものの、課題がないわけではありません。ここでは当社アナリストの金澤から「UZRで評価できる範囲、できない範囲」「なんであの選手がトップになるのか?から見えるUZRの課題」等に触れました。
 山本氏からは選手の打球判断による一歩目の動きから見る守備評価方法の説明があり、その先としてはトラッキングシステム(選手やボールの動きからデータを取得)によるデータ取得が本格化していくことが説明され、アンケートでもUZRの課題部分と今後の守備評価には納得できたという意見もあり、発見があったのではないでしょうか。




 ここで一旦休憩を挟み、後半戦に移りました。休憩中には「どんな指標があったらいいか?」というアンケートも回収しました。

後半戦スタート! 『戦略』から『戦術』への活用

 休憩も終わり、ここからは後半戦がスタートしました。


 休憩中に回収したアンケートから監督に関する指標のリクエストがあったため、それに絡めて山本氏から「セイバーメトリクス=戦略」というところから、戦術分野へのカバーに関しての解説がありました。セイバーメトリクスというと編成などの戦略面のみの活用という印象が強いと思いますが、それも今は昔。戦術面への進出についての話があり、ここでしか聞けない貴重な話であったと思います。

野球データ取得の近未来『PITCH f/x』

 ここからは今後のデータ取得の話で、まさに「野球のデータ取得の近未来」になります。MLBでは全球団におけるPITCH f/xにおける解説が行われました。

 当社アナリストの金澤からPITCH f/xによって球種毎における変化量やリリースなど今までできなかった分析ができることや、ニューヨーク・ヤンキースの田中将大投手のデータを用いて具体的な説明をしましたが、山本氏からも開幕時と故障前の田中将大投手の変化から考えられるコンディションの可能性のお話しがありました。このデータ自体が日本では一般的ではないため、名前くらいは聞いたことがあっても詳細についてはご存じなかった方も多かったと思われます。PITCH f/xの説明に加えて、山本氏の投球リリースから見る選手のコンディション分析はまさにここでしか聞けない解説だったと思います。

 また、金澤からも今後のデータの自動取得は投球に限らず、UZRのところでも触れたように守備にも広がっていくという解説がされました。

 最後にこの日はプロ野球後半戦の初日であったため、前半戦振り返りコーナーを設けました。
 中盤で話した「プレーで得点を再評価」の考えに基づき、各ポジションにおける攻撃面(得点)と守備面(失点)が平均に対し、上回っているか下回っているかのグラフを用いながら12球団のトークを展開しました。
 時間の関係で、ゆっくりトークすることができなかったため、別の機会で改めてこのポジションごとの得点、失点をきちんと説明しつつ、12球団分析が作れたらなとは思っております。



最後に質疑応答を行い、本イベントは無事終了致しました。

サイン会の様子&おわりに

 そして、最後のイベントであるサイン会では非常に多くの方に並んで頂きました。執筆者でない山本氏にも無理を言ってお願いしましたが快諾して頂き、来場者様の皆様も記念になったのではないでしょうか。

 

 100名規模のイベントは初めてであり、集客面の不安及び企画内容についても前回より3倍のお客様になる時点で、色々な方が来ることは想像できるため、「いかに多くの人に楽しんでもらえるか」という点で非常に悩みつつ、当日を迎えるまでは不安でいっぱいでした。
 結果的には多くの方に満足して頂けた実感がありましたが、2時間半という長いようで短い時間で色々お伝えする難しさもあり、課題も残りました。
 ただ、それも多くの方が来場されたことで感じられたことであるため、来場されたお客様には心から感謝申し上げます。また別のイベントを考えていきたいと思っているため、その時はまたご期待に応えられるよう頑張っていきたいと思います。