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コラム COLUMN

短期決戦で絶対的エースは必要か?

多田 周平

短期決戦に見る投手起用法

 11日からクライマックスシリーズが開幕。いよいよシーズンも大詰めに近づいています。ポストシーズンのような短期決戦で重要となるのが、投手起用法でしょう。少ない試合数の中で、登板間隔はどれだけ空けるのか、そのためにはどのタイミングで継投に入るか…など、シーズン中とは違った采配が必要となってきます。
 今回は過去の日本シリーズから、印象的な投手起用を紹介してみたいと思います。過去のチームは、どんな起用法を見せていたのでしょうか。

160球完投→中0日で胴上げ投手

 シリーズならではの投手起用ということで、昨季の楽天・田中将大を思い浮かべる人は少なくないでしょう。開幕24連勝と圧倒的な投球でチームを初のリーグ優勝に導いたエースは、日本一王手をかけた第6戦に先発。しかし9回160球の熱投むなしく、4失点で負け投手に。ポストシーズンを含めた連勝が30で止まってしまいました。それでもエースは翌日、2点リードの9回に登板し、見事に最終回を締めくくりました。
 過去の日本シリーズで160球を投げた選手は、田中で延べ13人目でしたが、救援とはいえその翌日にも登板した選手は田中が初めてでした。1試合で160球投げさせること自体も珍しいですが、そこからの連投は前代未聞。エース・田中への絶対的な信頼があればこその投手起用でした。

依存度86%!絶対的エースが4連投4連勝

 “連投”で絶対的な信頼に応えた投手は、田中だけではありません。1959年の日本シリーズで南海を初の日本一に導いた杉浦忠も、その1人です。この年の杉浦は2年目ながら、チーム全体の約3割を占める投球回371 1/3を記録。先発・リリーフで69試合に登板し、38勝4敗、防御率1.40の大活躍でタイトルを総なめにしました。
 日本シリーズでも、チームが過去に苦杯をなめ続けた巨人を相手に、4連投4連勝の活躍。防御率1.41の活躍も素晴らしいですが、驚異的なのは4試合で32イニングを投げ抜いた点。これは、チーム全体の86%を占めています。この割合は驚異的な数字で、過去の日本シリーズを見てももちろん最高値(先述した2013年の田中将大は投球回19で、チーム全体の約30%)。打倒・巨人に燃える鶴岡監督の、絶対的なエースへの信頼によって、シリーズ史上初めて4戦4勝で決着がついた年となりました。

依存度が高い2人の“神様”

 杉浦ほどではないものの、他にもチーム全体に占める投球回の割合が高い選手がいました。投球回の占有率が50%を超えていたのは延べ7人。7人の中でチームを日本一に導いたのは、杉浦、稲尾、杉下の3投手でした。
 1954年に中日を日本一に導いた杉下。この年は先述の杉浦同様に、防御率1.39、32勝の活躍で投手タイトルを総なめ。63試合に登板し、投球回はリーグ歴代5位の395 1/3回。チームの約1/3のアウトを1人で稼ぎました。日本シリーズでは5試合に登板して4完投をマークしています。
 1958年に西鉄を3連覇に導いた稲尾。第3戦までは0勝2敗の成績で、チームも3敗と後がない状況に追い込まれましたが、ここからの活躍はまさに歴史的。第4戦で完投勝利を収めると、第5戦では4回からリリーフ登板し自らサヨナラ本塁打。そして残り2試合は完封、完投と、杉浦より1年先に4連投4連勝をやってのけました。
 「フォークの神様」と「神様、仏様、稲尾様」。短期決戦を勝ち上がるため、非常に頼もしいチームの大黒柱に無理をさせてでも…という采配で日本一をつかみました。

平成に入って占有率が高かった投手は?

 占有率が高いのは、昭和20~30年代に活躍したかつての投手ばかり。ここで気になるのは、最近の投手で多くのイニングを投げている投手は誰なのかという点ではないでしょうか。ここで平成以降に絞って、上位5投手の結果を見てみましょう。
 ここで特筆すべきは、唯一40%を超えている岡林でしょう。1992年の日本シリーズでは7試合中3試合に先発し、いずれも完投。うち2試合が延長での完投で投球回30イニング、チーム全体の45%を投げています(この割合は全体で14番目の数字)。しかし岡林の防御率1.50と安定した投球もむなしく、チームは14年ぶりの日本一へあと一歩届きませんでした。

V9最後の年は、たった3投手で日本一!

 先述の杉浦、岡林のように1人でイニングを稼いだチームもあれば、“少数精鋭”で勝ったチームもありました。それを見事に体現したチームが1973年の巨人です。初戦は敗れたものの、高橋一が完投。第2戦は倉田-堀内の投手リレーで勝利をつかむと、第3・4戦は堀内、高橋一がそろって完投勝利。最終戦も第2戦同様の継投で4連勝と、わずか3人の起用だけで日本一、9連覇を達成しました。3投手しか起用しなかったのは、60年以上もある日本シリーズ史上、2度しかない(他は1952年の巨人)珍事でした。
 2試合に救援登板した堀内でしたが、実はこの年のシーズンは絶不調。自己ワーストの防御率4.52に加え、12勝17敗と負け越したのも自身初めてでした。しかしリリーフでは6試合、11 2/3回を投げて1失点という内容。川上監督はここに注目していたのかは分かりませんが、エースをまずはリリーフで起用。堀内は第2戦で自らの決勝打で白星を拾うと、続く第3戦では2失点完投に加え、打っても2本塁打3打点。前年に続いて日本シリーズMVPに輝いた裏には、こういった起用法もありました。

 今回は過去の特徴的な投手起用法を紹介してみました。1人の絶対的エースに依存することが一つの策であるかもしれませんが、複数の良い投手だけで上手く回すことができるという点も事実でした。今季も昨季の田中のような、想像を超える投手起用はあるのでしょうか。日本一を目指すシーズンも残りあとわずか。今季も短期決戦ならではの采配が振るわれるか、注目したいところです。