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コラム COLUMN

バウンド処理に見る捕手の守備力

山田 隼哉

 捕手が受けた投球の内容を細かく分析すると、おおよその暴投数と捕逸数を推定することができます。その数よりも、実際の暴投数と捕逸数が少なければ、優秀な守備力を備えた捕手である…かもしれない……。今回は、評価が難しいとされる捕手の守備力について考えます。

ワイルドピッチは全て投手が悪いのか

 野球には、暴投(ワイルドピッチ)と捕逸(パスボール)という記録があり、これらをまとめてバッテリーエラーと呼んだりします。前者が投手成績、後者が捕手の守備成績に含まれるように、暴投は投手の過失であるとされ、捕逸は捕手の過失であるとされるのが一般的です。

 投球が捕手の前でワンバウンドすると、多くの場合は捕逸ではなく暴投が記録されます。すなわち、ワンバウンドの投球を捕手が止められず、それによってランナーが進塁してしまった場合、記録上は投手の過失であるという扱いになることが多いのです。しかし、その一方で「これくらいのワンバウンドは捕手に止めてほしい」と感じることも少なくないはずです。暴投は必ずしも投手の責任とは言えず、同じワンバウンドの投球でも、うまく止められる捕手とそうでない捕手がいることは、皆さんも感覚的に理解しているのではないでしょうか。つまり、うまい捕手が守れば、捕逸だけでなく、暴投の数も減らせるだろうということです。

 そこで、今回はワンバウンド投球時(ショートバウンドを含む)における捕手の暴投・捕逸阻止能力について分析したいと思います。ワンバウンドの投球を止めて、ランナーの進塁を防ぐ能力が高い捕手は誰なのでしょうか。

中村悠平は優れていて、伊藤光は劣っているのか

 まず、今シーズンの暴投数と捕逸数とその合計をチーム単位で確認しておきましょう。これは、ワンバウンド以外の投球も含んだ数字です。見ての通り、12球団で暴投・捕逸の合計が最も少なかったチームはヤクルトでした。今シーズンは中村悠平が正捕手を務めていましたので、彼の守備力が導いた結果なのかもしれませんが、この時点でそれを判断するのは早計です。チームによって、ランナーを背負った状況で投げる回数も違えば、投手陣の性質(ワンバウンドを投げる割合)も違うはずだからです。

 実際、ランナーを塁上に置いた状況で投手がワンバウンドの投球をした回数はチームによって大きく異なり、今シーズンは最も少ないのが巨人で391球、最も多いのがオリックスで754球でした。オリックスはディクソンや東明大貴など、ワンバウンドを多く投げるタイプの投手が主力を担っていることが、その数字に影響しているようです。

 オリックスのように、ワンバウンドの投球が多いチームは、それだけ暴投・捕逸を犯す機会が増えるわけですから、単純に暴投数や捕逸数だけを比べるのは、捕手個人の能力を評価する上で公平とは言えません。つまり、オリックスの暴投数や捕逸数が多いからといって、伊藤光や山崎勝己の守備力が低いとは言えないのです。

 では、今度はランナーを塁上に置いた状況でのワンバウンド投球のうち、何パーセントが暴投・捕逸になったかという“割合”で見てみましょう。これなら、だいぶ条件が公平になるはずです。先ほど例に挙げたオリックスは、やはり機会数が多い分、割合で見ると他球団に比べて暴投・捕逸が少ないチームと位置付けられることが分かります。暴投・捕逸についての情報から、どのように捕手の守備力を評価すればよいかが少しずつ見えてきたところでしょうか。

簡単なワンバウンドと、難しいワンバウンドがある

 機会数の違いという基本的な問題が解消されたので、次は、ワンバウンドの投球をさらに細分化して、簡単なワンバウンドと難しいワンバウンドの区別を試みたいと思います。ひと口にワンバウンドの投球と言っても、「これは止めてあげないといけない(=簡単)」とか、「これは止められなくても仕方ない(=難しい)」といった具合に、簡単なワンバウンドと難しいワンバウンドが混在していることは確かです。適切な評価をする上では、このあたりをある程度区別しないと、難しいワンバウンドの投球をたくさん受けた捕手が不利になってしまいます。

 これは、ワンバウンドの投球をゾーンごとに分けて、それぞれのゾーンがどのくらいの確率で暴投・捕逸になるかを示した図です。パーセンテージが暴投・捕逸になった割合を示していて、2013年から2015年までの3シーズン分の結果がもとになっています。ゾーンの区分はコースで5分割、奥行きで2分割、計10個のゾーンです。奥行きはホームベースの手前でバウンドしたか、奥でバウンドしたかが基準になっています。

 この図を見ると、両サイドのコースに外れた投球やホームベースの手前でバウンドした投球ほど、暴投・捕逸になりやすいことが分かります。考えてみれば当たり前のことですが、こうした投球は捕手にとって止めるのが難しいボールと言えそうです。

 球種によっても、暴投・捕逸が起きる可能性は変わってきます。同じワンバウンドの投球でも、変化球よりストレートの方が暴投・捕逸になりやすいのです。意図的にワンバウンドを要求するなど、変化球はある程度捕球への準備ができますが、ストレートのワンバウンドは想定外であることが多く、捕球への準備ができないことが影響していると考えられます。また、球速が速いために、構えたコースと逆のコースに来た場合など、捕手の体が追いつかないことも影響しているかもしれません。

 以上のように、ワンバウンドの投球が暴投・捕逸になる確率は、ゾーンと球種によって大体決まってくることが分かりました。この情報をもとに、全てのワンバウンド投球を下の図のように16種類のパターンに分類し、それぞれが暴投・捕逸になる確率から、簡単なワンバウンドと難しいワンバウンドを区別したいと思います。ストレートがホームベースの手前でワンバウンドしたケースに関しては、件数自体が少ないため、サンプルサイズを確保するためにコースの5分割をやめてひと括りにしました。

平均的な捕手に比べて、いくつ阻止したのか

 さて、いよいよここからが捕手個人の評価です。簡単なワンバウンドと難しいワンバウンドの区別ができたので、それらを細かく分析していくことで、個人ごとの評価が可能になります。

 具体的には、先ほど16種類に分類したパターンごとの暴投・捕逸の確率データと、各捕手が実際に受けたワンバウンドの投球数を掛け合わせて、推定される暴投・捕逸数を割り出します。「この捕手はこのパターンでこれだけのワンバウンド投球を受けたので、平均的な守備力とした場合、推定される暴投・捕逸数はいくつである」といった具合です。そして、この数と実際の暴投・捕逸数の差を計算すれば、「平均的な守備力の捕手に比べて、いくつ暴投・捕逸を阻止したか」が分かります。当然ながら、多く阻止していれば平均より優秀、阻止できていなければ平均より劣る、といった評価になります。

 では、さっそく各捕手が暴投・捕逸をどのくらい阻止しているかを数字で見ていきましょう。データは2013年から2015年分をシーズンごとに用意しました。対象者は各シーズンで200回以上、暴投・補殺の機会があった選手です。また、以下に各項目の説明を記しておきます。

  • 機会数…ランナーを塁上に置いた状況でワンバウンドの投球を受けた回数
  • 暴投・捕逸…実際に記録された暴投・捕逸の数
  • 推定値…平均的な守備力の捕手が同じ機会を守った場合に推定される暴投・捕逸の数
  • 阻止率…平均的な守備力の捕手と比べて暴投・捕逸を阻止した数
  • 阻止率/400…400機会あたりに換算した場合の阻止率

継続的な高さが目を引く、江村や中村の阻止率

 まずは2013年のデータです。このシーズンで最も高い阻止率を残していたのは日本ハム・鶴岡慎也(現ソフトバンク)で、推定値18.6に対し、実際の暴投・捕逸数を12にとどめていました。特に、ホームベースの奥でワンバウンドする変化球を止められなかったケースが223球中1回しかなく、木佐貫洋や吉川光夫らの投球をよく止めていたようです。

 2番目に阻止率が高かったロッテ・江村直也は、翌2014年にも、機会数109で暴投・捕逸ゼロという非常に優秀な結果を残していました(ワンバウンド以外の捕逸は2回)。現在はファームでのプレーが中心となっているようですが、ワンバウンドの投球を止めることに関しては、NPB全体でも上位のレベルにあると言っていいかもしれません。

 続いて2014年、2015年のデータです。いずれのシーズンでもヤクルト・中村悠平が高い阻止率を残しています。中村は、石川雅規など変化球中心のピッチングを得意とした投手を多く抱えるチームにあって、相当数の暴投・捕逸を阻止していたようです。ここで、中村の暴投・捕逸阻止を図で詳しく見てみましょう。

 中村の阻止率を16種類のパターン別に示した図です。これを見ると、やはり変化球のワンバウンド投球を止めることで、多くのポイントを稼いでいることが分かります。特に、ホームベースの手前でワンバウンドした変化球に関しては、推定値16.0に対して実際の暴投・捕逸数が9と、非常に高い阻止率を誇っていました。

 このようにしてパターン別に分解していくと、単なる阻止率だけでは分からない個々の特徴が見えてくるため、より具体的なイメージを持つことができます。また、ワンバウンドの処理に弱点を抱える選手にとっては、前に弱いのか左右に弱いのか、などが把握できるため、トレーニングにも活用できるかもしれません。

感覚を定量化するということ

 というわけで、バウンド処理に見る捕手の守備力評価はいかがでしたでしょうか。もちろん、3シーズン分のデータをよくよく見てみると、例えば西武・炭谷銀仁朗の阻止率が一貫性に欠けていたり、同じチームの捕手が近しい阻止率になっていたりと、数値の信頼性の面ではまだまだ改善の余地があるように思えます。また、サンプルサイズは機会数200程度でも十分なのか、パターンの分類は果たしてこの16種類が適切と言えるのか、など手探りの部分も少なくありません。

 ですが、これまで公式記録や主観的なイメージだけに頼っていた部分を定量化する試みとしては、ある程度、意義のある分析ができたのではないかと思います。実際にプレーを目で見て守備力を評価することも、時には必要でしょう。そうした場合でも、得た情報を今回のようなデータで補完することで、よりいっそう適切な評価を下せるようになるのだと考えます。