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野球×統計は最強のバッテリーである ~セイバーメトリクスとトラッキングの世界~

金沢 慧

中公新書ラクレよりデータスタジアム株式会社の書籍が発刊


 この本は普段Baseball LABでコラムを執筆しているデータスタジアム株式会社ベースボール事業部のメンバーが中心となって書いており、主に次の3つが特徴です。

①トラッキングデータでストレートを5つに分類
②セイバーメトリクスの指標を易しく解説
③スコアラーとセイバーメトリシャンを整理

 今回はこの本の内容を少し紹介したいと思います。

ストレートってなんだろう?

 まず「①トラッキングデータでストレートを5つに分類」について。ストレートは別名「真っすぐ」とも表記されるように、あまり変化しない球であるように考えられがちです。ところが、メジャーリーグのストレートの軌道をPITCHf/xというトラッキングシステムで分析すると、実に様々な変化を見せるストレートがあると分かります。

 例えば「火の玉ストレート」として知られる藤川球児(高知ファイティングドッグス)のストレートでさえも真っすぐに投げられているわけではなく、シュート方向に変化しています。そして藤川球児よりもさらにシュート方向に変化するストレートを投げるのが、昨日ノーヒットノーランを達成した岩隈久志(シアトル・マリナーズ)です。

 藤川のように、今まで真っすぐ進んでいると考えられていたストレートでも、その多くはシュート方向に変化していたのだということが分かっています。書籍中では投球の軌道に関する研究を行っている國學院大學の神事努先生、炎のストップウォッチャーとしても知られるライターのキビタキビオ氏と私で、メジャーリーグのストレートを5つのタイプに分類しています。

 ボールの変化を説明しようとすると「揚力」や「マグヌス効果」など難しい物理の用語が並ぶことが多いのですが、この本ではできるだけ感覚的に分かるように、野球のプレーヤー視点での座談会形式にしてあります。野球を専門的にやっていたけれど、データ分析はちょっと・・・という方にもぜひ見てもらいたい内容となっています。

セイバーメトリクス指標早わかり

 「②セイバーメトリクスの指標を易しく解説」もこの本の特徴です。例えば出塁率は打者の「アウトにならない確率」、奪三振率は投手の「安全にアウトを取れる力」とひとことで説明しています。そして、なぜそのように言えるかを過去の実データから解説しています。

 今回収録している指標は次の通りです。

■打撃指標
・出塁率
・長打率
・OPS
・ボールゾーンスイング率
・ISO
・wRAA

■投球指標
・奪三振率(K/9)
・与四球率(BB/9)
・被本塁打率(HR/9)
・BABIP
・ゴロ割合
・FIP

■守備指標
・DER
・UZR

■総合評価指標
・WAR

 本来、セイバーメトリクスでは今作られている指標の不足点を認識し、真実を常に考え続ける姿勢が必要とされています。この本で書かれているような「○○がセイバーメトリクスです。これは△△を表す指標です。」というような、それ以上の思考を停止させるような物言いは専門家からみると違和感が多いかもしれません。

 ただ、今回はあくまでも「野球を昔やっていていて、最近データや統計という言葉に興味を持ち始めているようなビジネスパーソンの方」をイメージして、一般教養としての初歩的なセイバーメトリクスを紹介しているつもりですので、その点はご理解頂ければと思います。

セイバーメトリシャンの思考とは?

 「③スコアラーとセイバーメトリシャンの整理」について、セイバーメトリクスの指標を活用して球団経営の課題を解決するアナリストや、客観的なデータから選手の真の能力や特徴を発見し、議論を楽しむ人々を「セイバーメトリシャン」と言います。一方で、野球の現場でデータを活用し、選手に対戦相手の攻略法を伝える役割は「スコアラー」と言われます。

 上にある野球のデータ分析のマトリクスで大まかに分けると、セイバーメトリシャンは右側、スコアラーは左側に分類できるでしょう。

 どちらも野球のデータを分析する人々なので、野球にさほど興味のない人や、野球は好き、もしくは得意でもデータには興味のない人から見ると「野球データの仕事をしている人、もしくは野球データマニア」としてひとくくりにされてしまいがちです。ところが、その思考回路や行っている分析はかなり異なります。

 この違いを認識することは野球のデータ分析にとって重要なポイントだと思っていますので、本書ではセイバーメトリシャンとスコアラーの思考について整理を試みました。


 以上、今まで世に出ているセイバーメトリクスや野球データ関連の本に比べると、この3点が特徴的かと思います。

 他にも、すべての選手の動きをデータ化できるFIELDf/xの紹介や、今後のトラッキングシステムの活用方法など、野球×データの最新事情を満載しておりますので、ぜひチェックしてみてください。


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